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 その時、佑月はどんな顔をしていたのだろう。  渉は告白して、好きな人を抱きしめることに必死で、何も覚えていなかった。  次の日、一睡もできなかったが、渉はカフェのバイトに来ていた。  カフェエプロンを着けて、接客していたが、心ここに在らずで、時計ばかり見ていた。  朝からどんよりしていたが、外を見ると、傘をさすほどではないが、小さな雪が降り出したのが見えた。  佑月から聞いていた時間は、ちょうどお昼を過ぎた頃だった。  朝から時計ばかり見て、刻々と時間が過ぎていく中、渉は吐きそうになるくらいの緊張感で過ごしていた。 「ちょっ、渉くん、顔色悪くない? 大丈夫?」  フラフラになりながらレジに立っていたら、心配したモモちゃん先輩が話しかけてきた。 「もうすぐお昼だし、休憩入る? ちょっと休んだ方がいいって……」 「お昼……」  そう言われて、時計を見た渉は、着けていたエプロンを外して、ちょっと出てきますと言って店を飛び出した。  時計の針は間もなく、正午をさそうとしていた。  場所は駅前の大きな交差点、先に車同士がぶつかって、反動で飛んできた車に撥ねられてしまったと聞いた。  渉が走って交差点に着くと、そこにはたくさんの人がいた。  クリスマスが近い週末、カップルや家族連れ、友人同士で楽しく集まっている姿が見えた。  まだ、大きな事故が起こったような様子はない。  渉は辺りを見渡した。  凛奈は原色の明るい色を好んで着ていた。  それに、あのスタイルの良さと、ハッキリした顔立ちは、遠くから見ても分かるはずだ。 「……いた」  見覚えのあるコートと長い黒髪が見えて、すぐにそれが凛奈だと分かった。  信号は赤、凛奈は横断歩道の先頭に立っていた。  メッセージでも送っているのか、じっとスマホを見ていて、周りの人より少し前に出ているように見えた。  全ての時間が止まったように思えた。  なぜここに来てしまったのか。  今日がその日だと思ったら、足が止まらなくなった。  何度も考えた  自分はなぜ五年前に戻ったのか。  それはこの日のためではないかと考えた。
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