11/11

228人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 この日、佑月は凛奈と会う約束をしていた。  しかし、佑月は急な仕事で遅れることになってしまい、凛奈は待ち合わせ場所を変えるために、駅に向かっていたらしい。  俺のせいで凛奈は、と佑月は語っていた。  事故は佑月のせいではない。  けれど自分が遅れなければと、佑月は後悔することになる。  自分は欠けた人間だ。  この先の人生で、欠けた月を見ながら、佑月は何度も何度も、数え切れないくらい後悔して生きることになる。  佑月を悲しみから救ってみせる。  そう思っていたが、佑月の幸せを考えた時、本当にそれが正解なのか分からなくなってしまった。  だって今、渉がいるのは、五年前だ。  佑月が一生後悔する出来事がこれから目の前で起こる。  そこに立っているとして、自分のできることは何なのか。    坂道を下ってくる車が、明らかにおかしい蛇行運転をしていた。  クラクションの音が鳴り響き、みんなその方向に目をやった。  凛奈の耳には、イヤフォン。  スマホを弄っていて一人だけ、その方向を見ていない。  ガシャンと音がして、車同士がぶつかり合った。  周囲の人は危険を感じて逃げていき、そこでやっと凛奈は顔を上げた。  ぶつかったが車の勢いは止まらない。  反動で、信号待ちをしている人の方向に勢いが変わった。  渉は走った。  周囲の悲鳴よりも、はぁはぁと自分の吐く息の音だけが頭に響いていた。 ※※※
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加