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この日、佑月は凛奈と会う約束をしていた。
しかし、佑月は急な仕事で遅れることになってしまい、凛奈は待ち合わせ場所を変えるために、駅に向かっていたらしい。
俺のせいで凛奈は、と佑月は語っていた。
事故は佑月のせいではない。
けれど自分が遅れなければと、佑月は後悔することになる。
自分は欠けた人間だ。
この先の人生で、欠けた月を見ながら、佑月は何度も何度も、数え切れないくらい後悔して生きることになる。
佑月を悲しみから救ってみせる。
そう思っていたが、佑月の幸せを考えた時、本当にそれが正解なのか分からなくなってしまった。
だって今、渉がいるのは、五年前だ。
佑月が一生後悔する出来事がこれから目の前で起こる。
そこに立っているとして、自分のできることは何なのか。
坂道を下ってくる車が、明らかにおかしい蛇行運転をしていた。
クラクションの音が鳴り響き、みんなその方向に目をやった。
凛奈の耳には、イヤフォン。
スマホを弄っていて一人だけ、その方向を見ていない。
ガシャンと音がして、車同士がぶつかり合った。
周囲の人は危険を感じて逃げていき、そこでやっと凛奈は顔を上げた。
ぶつかったが車の勢いは止まらない。
反動で、信号待ちをしている人の方向に勢いが変わった。
渉は走った。
周囲の悲鳴よりも、はぁはぁと自分の吐く息の音だけが頭に響いていた。
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