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 走って走って、渉は地面を蹴って飛び上がった。  ガシャンとまた轟音が鳴り響いた。  コンクリートの硬い地面に転がった渉の目に、車が電信柱に衝突したのが見えた。 「ん……うぅ……う……」  勢いよく押し倒したので、凛奈は頭を打ったのか、目をつぶって痛そうな声を上げていた。 「大丈夫か!? 君、怪我はないか!?」  渉は車が突っ込んでくる直前に凛奈を押し倒した。  間一髪、跳ね飛ばされることなく、二人で地面の上を転がって、命は助かった。  周囲の人が集まってきて、二人の無事を確認した。  凛奈の方を見ると、横断歩道の向かい側から走ってきた男性に抱き起こされていた。  頭に怪我をしていたが、意識はあるようで、怯えながらも、受け答えをしているように見えた。 「今、救急車が来るから」 「大丈夫です。怪我は……」 「血が出てるぞ、どこかぶつけたかもしれない。ちゃんと行った方がいい」  怪我と言っても擦りむいたくらいなので、渉は遠慮したが助けに来てくれた人達に諭されて、病院に向かうことになった。  大勢の前で起きた事故なので、警察が走り回り、野次馬が大勢来て、たくさんの人が道路に溢れかえり、凛奈の姿は見えなくなるほどだった。  通行人の人に、女の子の方も大丈夫そうだと教えてもらい、渉はホッとして息を吐いた。 「……よかった。これで……よかった」  傷ついた腕を抱えながら、喧騒の中、渉は目を閉じた。  お大事に、と言われて渉は診察室を出た。  看護師さんから、女の子が助けてくれた人にお礼を言いたいと言っているから、会いに行ってあげてと言われたが、渉は首を振って、お大事にと伝えてくださいと言って頭を下げた。  凛奈と同じ病院に運ばれたが、渉は軽傷だったので、腕に軽く包帯を巻かれただけで処置が終わった。  凛奈は転んだ時に頭を打ったので、念のため入院するらしい。  凛奈が処置を受けている部屋の前を通った渉は、少し足を止めてから、また歩き出した。  厚手のパーカーを頭からかぶって下を向いて歩いていると、病院の入口の自動ドアが開いて、佑月が飛び込んでくるところが見えた。  受付の人に声をかけて、あちらですと案内された佑月は、汗を拭いながら走ってきた。  佑月が走ってくる姿が、スローモーションのように見えた。
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