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壊れそうな感情に染まった渉の体に、真っ白な雪が降り積もっていく……
降り止むことのない雪が、渉の全身を白く染めていった。
※※※
「渉! 渉!」
ぼんやりした視界に、会いたかった人の顔が浮かんだ。
手を伸ばした渉が、その輪郭に触れると、懐かしい肌の感触がして口元が綻んだ。
「よかった。気がついた……先生、もう大丈夫ですよね?」
「雨樋さん、少し落ち着いてください。都筑さん、痛みはありますか? ここがどこだか分かりますか? 倒れた時の状況は?」
ペンライトを持った白衣の男が近づいてきて、渉の目にライトを当ててきた。
眩しさに目を細めながら、渉は病院ですかと聞いた。
「あの……俺……、雪が降っている中、路上で倒れて……」
「少し、記憶が混乱していそうですね。都筑さん、貴方はご自宅のマンションの階段から落ちて、意識を失って病院に運ばれたんですよ。彼のことは分かりますか?」
眼鏡をかけた白衣の男にそう言われて、後ろから心配そうな顔で覗き込んでいる佑月の顔を見つけた。
「佑月……俺の、恋人です」
「渉……渉!!」
飛びついて来ようとする佑月を、医師が落ち着いてと言って止めた。
「検査の方は問題ないです。意識も戻ったので、あと少し様子を見て、大丈夫そうなら退院でいいと思います。あ、腕が折れているのでくれぐれも安静に」
「は……はい」
眼鏡をキラリと光らせた白衣の男は、おそらく医師だろうとやっと気がついた。
そして自分は病院のベッドで寝ていて、腕はガッチリと固定されていた。
薬のせいか、痛みはあまり感じないが、頭が混乱してよく考えられなかった。
「佑月……? 雨樋さん? 凛奈さんは?」
「なんで名字で呼ぶんだ? それに、なんで凛奈が出てくるんだ? 記憶が混乱しているのか?」
「ええ、しばらくは、そういった状態になると思いますが、無理に直そうとせずに、様子を見てください」
そう言って医師が病室から出て行ったら、すぐに近づいてきた佑月が、ガシッと渉の手を掴んできた。
「渉、すまない。俺がスマホ忘れたせいで、渉は追いかけて外に出て階段から落ちたんだ。ちょうどタクシーで戻ったところで、階段から落ちた渉を見て……俺は……俺は……、渉は死んでしまったみたいに冷たくなって……」
「ちょっ、ちょっと佑月……」
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