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 ボロボロと泣き出した佑月を見て、渉はやっと状況を整理することができた。  今の時間に戻ったんだ。  階段から落ちたのは、五年前ではなく、今の渉だ。  つまり、やはり長い夢を見ていたんだと気がついて、渉の目からもどっと涙が溢れ出した。 「渉? どうした? 痛いのか!? せ、先生を……!!」  ベッドの上にあった呼出用のボタンに触れた佑月の手を、渉はそっと止めた。 「だ……大丈夫、嬉しくて……戻れて、よかったって……」 「渉……」  本当に長い長い夢だった。  あんな思い、二度としたくないと思うけど、もし本当に五年前に戻ったとしても、渉は同じ行動を取るだろう。  泣き出した渉のことを、ベッドに腰を下ろした佑月が抱きしめてきた。  佑月の匂いが体中に広がって、嬉しくていっぱい息を吸い込んだ。  何よりも、佑月に一番幸せでいてほしい。  それが、渉の幸せ。  一緒に生きていくことが許されるのなら、佑月の後悔も苦しみも全部包み込んで、愛し抜いていく。  一生……ずっとずっと……  抱きしめられた腕の中で、渉はそっと目を閉じた。 「そうだ、冷蔵庫の食べ物、あれどうした?」 「一人で食べたよ。さすがに残しておけないからさ」 「よかった気になっていたんだよね。洗濯物は溜まっている? ちゃんと掃除は……」  玄関のドアを開けて、久々に佑月の家の匂いを嗅いだら、やっと帰ってきたという気持ちになった。 「退院できたからって無理するなって。片手はしばらく使えないんだし、家事は全部俺がやるから、渉は動かないこと、いいな」 「そんなー、仕事も休みなのに……。聞き手じゃないから少しくらいは大丈夫だよ」 「いや、だめだ。お風呂から何もかも……、ここの世話も俺がやるからな」  そう言って佑月は渉のお尻に触れてきたので、渉はもうと言って佑月の手から逃れた。 「へんたーい、えっち」 「何とでも言え。恋人の特権だ」  そう言ってヘラヘラ笑う佑月を見て、こんないたずらをする人だったかなと渉は首を傾げた。  その時、溜まっていた郵便物の束に、綺麗な花柄の封筒を見つけて、渉はそれを片手で掴んだ。 「あれ、これ招待状……? えっ……これって!?」  差出人を見て、驚きの声を上げた渉の後ろから、佑月が封筒を覗き込んできた。
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