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 安心させるように片手で渉の背中を撫でてあげた。  片手が使えないから、ぎゅっと抱きしめることができなくて、それが悔しい。  もう片時も、離れていたくなかった。 「あ、そうだ! 渡したいものがあるって言っていたよね、あれって……」 「ああ……それね。いつ出そうかと思っていたけど」  ゴソゴソとコートのポケットに手を入れた佑月は、中から何かを取り出して、渉の前で手を開いて見せてくれた。 「え……鍵?」 「そう、このマンション、狭いだろう。二部屋借りている状態だし、近くのマンションだけど、もっと広くていい部屋があったから買ったんだ。……一緒に暮らそうって言って、あの日はそのお祝いも兼ねてディナーに……」 「嘘……本当に?」 「今は法的に結婚できるわけじゃないけど、鍵を渡して伝えたかったんだ。俺とこれから一生、ずっと一緒に生きてほしい」 「……うん、ずっと一緒にいよう」  まだ明るかったが、空には月が見えた。  落ちてきそうなほど大きな満月だった。  過去に戻って佑月の後悔を救い、また今に戻ってきた。  説明なんてできるものではないが、そう考えるのが一番しっくりくるような気がした。  そのためか分からないが、所々違う箇所はあるが、お互いが愛し合って一緒に生きて行く未来を考えていた、それは変わらなかった。  抱き合った二人は自然と唇を重ねた。  何度も角度を変えて、お互いの熱を混ぜ合わせて喉を鳴らした。 「しばらく無理はダメだと言われたが……俺は限界に近い。でも、我慢する……」  キスをしていたら、昂ってしまい、佑月は熱い息を吐いていた。  少しくらいはいいんじゃないかと思うのだが、佑月はかなり心配性なので徹底している。  泣きそうな顔で唇を噛んで禁欲するという佑月を見て、可愛くてクスッと笑ってしまった。  口寂しそうな佑月のために、渉はテーブルに載っていた蜂蜜の瓶を手に取った。  佑月の幸せのためなら、過去でも未来でも飛んでいって、渉は何でもやるつもりだ。  しかし実際のところ、過去に戻るのは、心が揺れるようなことばかりだった。  ちょっと愚痴を言いたくもなる。 「……大変だったんだからね」  そう言って口を尖らせていると、佑月が呑気な顔で何が? と聞いてきた。 「ひみつ」  そう言って、佑月の口の中に、蜂蜜を塗った指を入れると、ペロリと舐めた佑月は、甘いと言って笑った。 (終)
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