大きな間違い

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大きな間違い

倉本昌子、72歳、一人で安アパートで暮らす、いわゆる独居老人である。 身寄りは無く、5年前に、夫は肺炎をこじらせて死んだ。 我が儘で、束縛が強く、手を焼いた夫が死んで、悲しいというより ほっとした昌子だった。 これで、一人で気ままに暮らせる、そう思ったが 昌子の体はすでに、ガタガタで、足と腰の骨に異常が有り 二週間ごとに、整形外科に通って、リハビリを受けねばならなかった。 車の免許も無い昌子は、ちょっと遠い所へ行く事も、難しく 足腰が痛むので、階段や、坂道は歩けず、バスや電車に乗る事も難しかった。 それに、出掛ければ、何かとお金が掛かる。 僅かな額の、国民年金だけの生活に、出掛けるだけの余裕は無かった。 そんな中、3年前に子宮癌が見つかり、子宮と卵巣の全てを手術で取った。 幸いな事に、癌は、初期中の初期で、その後の治療は無く ただ、年に数回の、定期検診が有るだけだった。 「術後、3年が過ぎましたが、何も異常は有りませんね、この調子で あと2年過ぎれば、癌は、完治したという事になります」と 主治医は、嬉しそうに言った。 癌は、完治しても、この足腰じゃ、何も出来やしない。 昌子は、軽く溜息をつく。 その病院からの帰りに、いつものスーパーへ寄って、買い物をし 荷物で一杯のカートを、コロコロと、引っ張りながら 休み休み家に帰る、、、所だったのに いきなり意識が遠くなり、やがて、眩しい光の中で、目覚めた。 目の前には、見た事も無い、綺麗な女性が居て 「申し訳ありません」と、謝る。 「え?何?ここ?貴女は誰?」キョロキョロと、周りを見ながら聞く。 「ここは、天界です、私は、天界を統べる者、天帝です」 「てんかい?って、天界って事?」 「はい、申し訳ない事に、私の部下である天使が、間違って 貴女の魂を持って来てしまいまして」「へ?天使?魂って?」 さっぱり、訳が分からない。 「間違いに気付いた時、すでに貴女の体は、火葬されて無くなっていまして」 「え?ええっ、私は、死んだのですか?」 「いえ、間違いなのです、貴女は、これから先 まだ30年の寿命が有りました」「まだ30年って、、、」 「はい、貴女の寿命は、102歳なんです」「102歳、、、」 こんな、がたがたな体で、まだ30年も生きると言うのか。 昌子にとって、あまり嬉しい話では無かった。 この真っ白で、眩しい光の中の、美しい天帝様?本物なの? 天界って、誰も行った事が無いから、これが本当かどうか分からない。 「私、このまま死んでも良いんですけど」と、昌子は言った。 自分の身体も、自由に動かせない、こんな体で あと30年も、生きたくなかった。 「駄目です、まだ寿命が有る魂は、消える事は有りません。 それで、今、貴女の魂を受け入れてくれる体を探しています」 「はぁ、、」昌子は、気の無い返事をする、天界だの、天使だの、天帝だの 魂だの、あまりにも、突拍子もない、有り得ない話に、頭が付いて行かない。 「心配は要りません、必ず見つかります、ですが、どんな所に 転生するかは、分かりません、何も知らない世界でも、上手く暮らせるように 私から、お詫びとして、特典を付与しましょう」「はぁ」 「まず、どんな所へ行っても、その世界の言葉が話せ 字も読めるという事が一つ、更に不思議な倉庫も」「倉庫?」
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