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犬屋敷
保夫が犬を連れて散歩していると、おなじチワワを連れた若い女性が向こうからやって来た。
保夫は声をかけた。
「やあ。おはようございます。お宅もチワワですか」
女性も屈託なく応じる。
「ええ。あなたのチワワ、可愛いわね。男の子?」
二人は会話のきっかけとなったそれぞれの飼い犬を誉めあった。
しばしのち。
意気投合した二人はメールアドレスを交換し合い、別れた。
*
「保夫坊っちゃん、今朝は犬を連れていかないんで?」
爺が訊ねる。
「ああ。今日は犬なしだ。ちょっと偵察……」
「偵察?」
爺は首をかしげた。
「いやいやなんでもない。こっちの話さ」
保夫は靴ひもを結び終えると早朝の町へと出かけていった。
爺は独り言をつぶやいた。
「……ときどき犬なしで散歩に行かれるなあ。坊っちゃんは」
目的地もなく方々を歩く保夫。いいかげん歩き疲れたところで、ポメラニアンを連れた女子高生風の女の子を発見した。
腕時計で時間を確認し、メモを取る。
〈午前六時五十分。○○町三丁目。花屋から駅に向かって二百メートル。薬局のオレンジ色の看板のあたり。犬種・ポメラニアン〉
*
保夫が犬を連れて散歩していると、おなじポメラニアンを連れた女子高生風の女の子が向こうからやって来た。
「やあ。おはよう。可愛いポメラニアンだね」
「そんなこと。うれしい。あなたのお子さんはなんて名前?」
「リリーさ」
「いいお名前ね。うちの子はジョニーっていうの。相性はどうかしら」
話のきっかけとなったポメラニアンの話題から会話が膨らんで、二人は盛り上がった。
二人はメールアドレスを交換し合い、別れた。
*
近所に住むカップルが大きなお屋敷のまえを通りかかる。
お屋敷からはものすごい数の犬の鳴き声が響いてくる。
「相変わらずすごい鳴き声だなあ。犬屋敷の呼び名のとおりだ」
「餌の時間なのよ。朝夕、いつもこうよ」
彼氏が首をひねる。
「どうしてあんなに犬を飼っているのかなあ。ただの犬好きかなあ」
彼女も小首をかしげた。
「お金持ちだから飼えるんでしょうけどね。
でも、どうしてなのかしら」
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