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第1章
“咲世の名前はね、お父さんが付けたのよ?“
“ふーん。お兄ちゃんの名前はお母さんが付けたのに?”
父より母に付けて貰う方が価値があるような気がして、そう尋ねた。
“お父さんとお母さんが相談して決めたの。男の子はお母さん、女の子はお父さんが付けるって”
“ふーん。どうして?”
“そうすると幸せが2倍になると思ったからよ”
“へー”
“そうしたら、こんな素敵な名前を付けてくれた。咲世は世の中に咲き誇る人になるの”
“・・・なれるかな?”
“なるわよ。きっと。少なくとも咲世が我が家にいるだけで、みんな明るく元気になるもの”
母は線の細い、儚げな美しい人だ。兄は母によく似ている。私はどちらかというと父親似。父に似て、社交的で気も強い自覚がある。
“裕真が女で、咲世が男だったら良かったのに“
お正月に来ていた常連のお客様や親戚の人にそんなことを言われた日のことだった。
その時は笑顔で“本当にそうですよねー”なんて言い返して、自室に戻って悔し涙を流していたとき母が来て言ってくれたのだ。慰めでも嬉しかった。
もう、いい。
私はこの体と、この心で生きてく。
そう決めたのは、身長が160センチを超えた11歳のお正月だった。
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