0人が本棚に入れています
本棚に追加
とにかくどうしていいのか分からなかったから、最寄りの警察署に行ってみる。すると、警察の拾得物係の若い男性職員が出てきて、黒柴をカメラで撮影した。
「で、どうします?」
「どうしますって、ここで飼い主が見つかるまで保護してもらえたら……」
「警察では、そのようなことはしないのです。こっちが預かると、すぐに動物愛護センターへ持っていくことになります」
「それで、どうなるんですか?」
「飼い主が見つかったら、いいですが、見つからなかったら譲渡先を募集して、それでも飼いたい人がいなかったら、殺処分です」
この職員は、殺処分という重くて恐ろしい言葉を軽く事務的に話す。こういう迷い犬の事例がたくさんあって、慣れているのだろう。
「殺すんですか? このなんの罪もない犬を?」
「仕方がないんです。おそらくこいつは、1か月以内に殺処分になると思います」
「飼い主さえ、来ればいいんですね?」
「いえ、……おそらく来ないと思います」
「まさか、自分の家族がいなくなったのに、そんなのないでしょう?」
「血統のよさそうな柴だけど、高齢のメスのようですね。首輪をしていないし、おそらく……」
「おそらく、なんですか?」
「高齢で子どもが産めなくなったから、捨てられたんでしょう。悪どいブリーダーにとって、こいつは金になる黒柴の仔犬を産む商売道具でしかない。仔犬が産めないなら、もう、用なしで引き取りにはきません」
「そんな……」
この世の闇を知った。これまでショッピングセンターのペットショップで仔犬を見かけたら、ボクはだた無邪気にかわいい、と思って喜んでいたが、その背後には、こんな犠牲となる犬がいるとは。
ブリーダーの大半は、こんな悪どいことはしないのだろうが、中にはこのようなクズのようなヤツがいる。
許せない。
「ご了承の上、動物愛護センター引き渡しでいいですか? 今から拾得物の書類を書きますので……」と言う職員をボクは制止した。
「ボクが引き取ります」
「いいんですか?」
「はい」
それから、ボクと黒柴の暮らしが始まった。
最初のコメントを投稿しよう!