それも、家族

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 今夜もスナック菓子をつまみにアルコール度数が高い缶チューハイを2本勢いよく飲むと、もうフラフラになる。この瞬間だけ、ボクは苦しさを忘れることができる。  こんな時ネコのハルはいつも、自分にも食べるものをよこせ、と言わんばかりにニャーニャーと鳴いた。落ち込んでいるボクのことなど、まるで気にしないで自分の要求をしてくる。ネコはそんなもんだ。わがままで、マイペースだから、おやつのかつお節を食べ終わると、さっさとボクから離れて眠り出した。  マユは、相変わらず部屋の端で佇み、近付こうともしない。せめて、ハルのようにおやつが欲しいという下心がありつつも、すり寄ってきたら可愛げがあるのに。 「おい、マユ! お前、ムカつくよ。命を救ってやったんだから、少しはボクに媚びたらどうだ。ボクはお前のクライアントだぞ」  イラついていたボクは、普段客から言われている心ないことをマユにそのままふつけてしまった。  すると、マユは遠くからボクを凝視する。しかし、やっぱり近付こうとしない。 「バカ! マユなんて拾うんじゃなかったよ! あの時死ねばよかったのに」  決して口に出してはいけないことをこぼして、ようやく我に返った。 「すまない。すまない、マユ。ボクが悪かった。毎日、仕事がつらくてさ。八つ当たりするなんて、最低だな。すまない」  泥酔したおぼつかない足取りで、ボクはマユの前に行って謝る。その間、ずっとマユはボクを凝視していた。  犬用のおやつパンを出し、マユの前に置く。せめてものお詫びのつもりだ。マユはパンが大好きで、与えればいくらでも食べてしまう。  しかし、この日は食べようとしないで、なおもボクをじっと見ていた。 「ごめんな」  そう言って、再びテーブルに戻ったボクは、また缶チューハイを開けて、一気に飲み出す。もう、今夜は、4本も飲んでいる。そろそろ、記憶がなくなりそうだ。  その時、缶を持つボクの右腕が自由に動かせなくなった。酔っているから、何が起こっているのかすぐには分からない。  目を凝らすと、左側に黒い物体があった。  まさか。 「マユ! マユか!」  初めてマユが、自らボクに近付いてきている。よく見ると、マユはシャツの右ひじあたりを噛んで、これ以上飲ませないようにしていた。 「嘘だろ? 今のボクの状況を理解して、酒を飲んじゃダメだって言ってるのか?」  マユは頑なに、咥えたシャツを離さない。  マユは何と頭がいいのか。ボクの想像を超えている。  ようやく口を開いてシャツを離すと、今度は右腕に頬ずりをしてくる。 「心配してくれているのか? 上司にも見捨てられているボクなのに」  マユの体温が右腕から伝わってきて、涙がとめどなく溢れてきた。  そうか、今までマユはボクに近付かなかったけど、その代わりに遠くから見守ってくれていたんだ。 「ありがとう、マユ。ありがとう。ボク、頑張るよ」  この日、マユはいつまでもボクのそばから離れなかった。
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