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夏を越え、街が秋色に染まり始めた頃、マユは散歩に行くのが億劫になり出した。家でも寝ている時間が増えている。
高齢とはいえ、心配になったボクは行きつけの動物病院にマユを連れて行った。
「高齢によるものか、何かの病気かは、レントゲンを撮ればある程度分かりますが、どうしますか?」
地域でも評判のいいこの獣医は、高い費用がかかる検査をする場合には、必ず飼い主にやっていいかどうか聞いてくる。
「はい、ぜひ」
「レントゲンで原因が分かっても、助からない可能性もありますよ。そうだったらレントゲン代がムダになってしまいますが、いいですか?」
「はい。マユはボクの大切な家族なので、やってください」
検査後、マユは車の中で待たせ、ボクは再び診察室に入った。
獣医のデスクにはマユの体内の画像が何枚も掲げられている。
「肺がんです。残念ながら、かなりがんが大きくなっています」
獣医は、淡々と説明した。
え?
ボクはそれを聞いて、到底信じられない。動かなくなってきたとはいえ、マユは元気だからだ。
そんなこと、あってたまるか。
「助からないのですか?」
「はい。そもそも、早期発見だったとしても、今の動物の医学では治療できません。何歳かははっきりとわかりませんが、高齢でもあるので寿命とお考えください」
気が付いたら、ボクは泣いていた。
ボクは、家族を守れないのか……。
マユはこれまで悪どいブリーダーに育てられ、山に捨てられて、最後の最後でがんだなんで、あんまりじゃないか。神様は意地悪すぎる。
「余命は、どれくらいですか?」
「よくて1か月くらいですね。どんなに頑張っても、年を越すことはありません」
まだ、元気なのに、たった1か月?
嘘だ、嘘だ、全部嘘だ。
「どうしますか? この先、苦しませるのを避けて、今、安楽死させることもできますが……」
「いえ、連れて帰ります」
それから、どうやって家に帰ったのか覚えていない。
ボクは弱い。マユがいなくなったら、生きていけない。こんなのいやだ。
せめて、残されたマユとの時間を大切にしたい。どんなわがままだって聞いてやる。最期はボクの部屋で死なせてやりたい。
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