それも、家族

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 獣医が診断したとおり、マユは日に日に痩せ、弱っていった。食欲もない。  大好きだったパンはかろうじて食べてくれるから、人間が食べる生クリームたっぷりの高級食パンを毎日やった。犬の体にはよくない食品だが、もうそんなことはどうでもいい。マユさえ喜べばいいのだ。  トイレに行けなくなったから、オムツを買って体に負担のないようにベッドも用意した。1日でも長く生きて欲しい。そのために世話をすることなど、苦でもない。  仕事は相変わらず忙しかったが、できるだけ早く帰って、マユと残されたかけがえのない時間を過ごそうと心がけた。  あと、何日、一緒にいられる?  ハルもマユのことを心配して、毎日寄り添って寝るようになった。  しかし、その日はあっけなくやってくた。  仕事から帰ってアパートのドアを開ける。 「マユー、今、オムツを換えるから待ってな」  そう言ってリビングに入ると、マユは眠りこけっていた。  ……あれ、全く動かない。  体を触ると、固くなっていた。  ハルは、マイペースにニャーと鳴いている。  そうか、天国に行ったか……。  もう、ボクは泣かなかった。覚悟はしていたから。最期は看取ってやりたかったが、マユはきっと仕事に行っていた方が喜んでくれたはずだ。  これでいい。  ありがとう、マユ。  痛かったね。やっと、痛みから解放された。  ボクはもっともっと、強くなるよ。  短かったかけれど、ボクはマユと過ごした時間を忘れない。  ボクは大丈夫だから、安心して、な。  深呼吸を一つして、あらかじめブックマークを付けていたペットの葬儀屋に電話する。  こんな時ですらハルはマイペースにオヤツをくれ、と主張して、ニャーと鳴いていた。(了)
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