タンスの奥に

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 見ると引き出しの奥の板かと思っていた部分は仕切り板であり、その向こうに何かが残っているではないか。  Mさんは引き出しを一度出し切り、仕切り板の向こうを確認した。  そこにはティッシュ箱ほどの大きさをした紫色の紙の箱があった。これ自体は乾物か海苔かを贈呈された際の箱を思わせる質感で、何の変哲もない。  その箱を開けてみると中には紙包みがあった。薄い和紙に何かが包まれているようだ。 「あれ、お金でも残ってるのかな」  ほんの少し邪な気持ちがMさんに湧くが、すぐに打ち消して本来の目的に戻る。紙包みを開いて中身を改めていく。 「写真だ」  そこには1枚の写真が入っていた。白黒ではないがだいぶ色あせており、全体が薄茶色に染まっている。  しかしそれよりもMさんは不可解に感じていることがあった。  写真に写っていたのは若い男女。男の方に見覚えがある。Mさんの亡くなった祖父ではないだろうか。その面影がある。  そうなると女の方は当然祖母ではないかと思われた。 「うん? こっちは誰なんだろう」  女性の方は祖母とは全く顔が違う。Mさんの見たことのない人だった。  どことなく狐を思わせるような切れ長の目で、カメラの方を見てにこやかに笑っている。なかなかの美人だ。祖母とどちらが美人かというと……  しばらくMさんは写真を手に持って眺めていると、異変が起きた。 「ひっ……」  写真に写る女の顔の上から、かぎ裂きのような傷が幾筋も出現したのである。  左上から右下へ向かって斜めに何本もの筋が女の顔を裂いていく。 「えっ、な、えっ」  今度は左から右、右から左へと顔を消し去るような勢いで筋が走る。  Mさんは写真を持った手を放すこともできない。ただただ女の顔が裂かれていくのを見ているだけになった。  そして女の顔がズタズタにされて元の顔が判別不可能になったところでこの事象は止まった。  写真の女性が誰なのか、なぜこの写真がタンスの奥の仕切り板の向こうにあったのか、そしてこの異様な出来事はなぜ起きたのか。  憶測の域を出ないが、Mさんにはなんとなくわかった気がした。  写真を隠したのは祖父であろう。よほど手放したくない思い出の写真だったのか、あるいは移っていた女性に未練でもあったのか。  そして写真の女の顔を裂いたのは……  Mさんは庭でこの写真だけを焼いた。  よく祖父母の夫婦生活が破綻しなかったものだと思いながら。
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