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客観的に見ると、Mさんの母方の祖父母は仲がよかった。
ただ叔父から聞いた話では、祖父は若い頃女性関係が派手で、祖母と結婚した前後であっても他の女性との関係が取り沙汰されていたそうだ。
祖母の方はそんな祖父を相手にしていたからなのか、たまに激高して祖父の女性関係を問い詰めていた場面がMさんの幼い記憶の中にある。
「それでも、別れずにおじいちゃんとおばあちゃんになるまで結婚してたのよね」
Mさんはポツリと呟く。社会人ではあるがまだ恋愛経験が豊富でなかったMさんには、男女の情念や長年連れ添った夫婦の結びつきについては理解が及んでいないのである。
さて、Mさんの祖母が亡くなってしばらくしたある日のことだった。
Mさんと祖父母は同じ家で同居していた。遺品整理をする必要があるため、Mさんは一人で祖母の部屋を片付けていた。
祖父母が2人で寝泊まりしていたのが、いまMさんがいる広めの部屋である。祖父は祖母よりも先の数年前に亡くなってしまったため、その後は祖母が1人で使っていたのだ。
入る機会が多くなかったため、Mさんはこの部屋の中に何があるかまでは把握していなかった。
病気で祖母が入院し、もはやこの家に戻ってこられることはないだろうとMさんは覚悟していたが、亡くなるまでは部屋を整理する気になれず、あまり入ろうともしていなかった。
「全部の引き出しを開けるのも、なかなか疲れるものね」
ものが詰まっているタンスの引き出しを開けて、中身を出していくのは重労働ではあったが両親はそれを見込んでMさんに頼んできたのは明らかだ。
形見として祖母の使っていた時計はすでに別の場所に保管していたため、それ以外のものの処分は他の家族からMさんに任された。相応の手間賃はもらうはずであった。
「この着物も、どこかの業者に引き取ってもらうしかなさそう」
いつ着ていたものであろうか、それなりに上等な着物がタンスの奥から出てきたりして侮れない。早めに買い取り業者に連絡を取る必要がありそうだった。
同じタンスの一番下。ものを全部出したはずだが引き出しを戻すときに少し重みを感じた。
「あれ、まだ何かあるのかな」
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