あなたの音と

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 ある日のことだった。 そんな真っ黒のおめめで、何が見えているの?  物置となった和室で、仔犬は尾を振り、夢中で衣装ケースの角を掘っている。もう畳がぼろぼろだ。  衣装ケースの中には、私のお気に入りのたちが詰まっている。七五三で着た着物、遊ばないけれど手放せないテディベア、そして――それらに押しつぶされているフユフユが顔をのぞかせていた。  それが見えているのだろうか、仔犬は短い前足でしきりにその場所を掘っては、小さく白い前歯をつきたてている。 「これが欲しいの?」 私は蓋をあけ、手をケースの中に突っ込んだ。古い布の匂いが目と鼻をくすぐる。  硬く冷たいものやべたべたするものに触れ、ようやくタオル地に指が届いた。  
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