3.

2/5
前へ
/136ページ
次へ
 ちょっと飲みすぎたかもしれない。夜風で酔いを覚ましつつ宿へと戻り、部屋に入った。  身を清め居間で装備を確かめていると、風の唸り声のような音が聞こえた。そんなにも風が強かったか?  動きを止めしばらく耳を澄ますと、仕切られた奥の寝室から小さな悲鳴が聞こえた。 「シア!」  タン! と襖を開け部屋を見渡したが、寝台の中央にこんもりと丸まる一人以外、侵入者は見当たらない。 「うぅ……いやだ! やめ……やめろぉっ」 「……シア」  被っている掛け布を剥ぐと、身体を丸めてギュッと目を閉じ、ガタガタと震えるシアがいた。思わず肩を掴む。 「いや! いたい、痛い! あああぁ……」 「シア……シア! それは夢だ。大丈夫だから……起きるんだ」  やっと目を開けたシアは薄明りにも分かるほど青褪め、絶望的な表情で俺を見つめた。指の関節が真っ赤になるくらい強く掛け布を握りしめ、まだ身体は震えている。 「あ……おれ、……だ、大丈夫だから」 「ちょっとこっち来い」 「わ、!」  俺は掛け布を掴み、シアの全身をぐるっと包んで上から抱きしめた。  初めこそ「ヒッ」と小さく声を上げ身体が強張ったが、背中を温めるようにさすってやると徐々に震えは止まった。 (こいつ……何をされてたんだ)  疲れ切ったようにそのまま眠りに落ちた顔を見つめると、血の気が戻りかけているもののまだまだ顔色は悪い。俺はシアと一緒に行動しはじめてから数日、毎晩朝方まで出かけていたから気づかなかったけど、いつも眠れていなかったのかもしれない。  無意識に手を伸ばし冷や汗で額に張りついた前髪を避けてやると、眉間に皺を寄せてむずがるような表情をする。 「寝てても生意気だな……」  腕の中の身体はひどく細くて頼りない。おれは自分の体温を分け与えるように抱きしめたまま横になり、朝方までその体勢でいた。性的な意味以外で人を抱きしめたのはいつぶりだろうか――    脚に滑らかな肌があたる。女と寝ていたんだったか? 俺よりも体温の低い肌は心地がよく、思わず腰を抱きよせ脚を絡めた。  朝の柔らかい光が目元に差しこみ、眩しくて目が覚める。瞼を開くと、息がかかるほど近い場所にシアの顔があって……にやにや笑って俺を見つめていた。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加