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「おはよう、とら。お前、意外と若かったんだな」 「は、? シアお前……もう大丈夫なのか」 「あ〜、昨日の? 大丈夫だって。ちょっと夢見が悪かっただけだから……。ていうか、元気だな? コレ」 「――ッ!」  自分がシアに脚を絡めて腰を押しつけていることに気づいた瞬間、飛び起きて距離をとる。  シアは寝台で横になったまま肘を立て手のひらに頭を乗せ、悪気しかない悪童の表情で俺を見ていた。寝衣から丸見えになっている脚を妖艶に伸ばしている。 「早く起きろ! もう行くぞ!」 「えー、ほんとにすぐ出れるの?」 「うるせぇ!」  断じてこんなやつに欲情したわけではない! 生理現象だ生理現象。  昨日買っておいた飯を腹に収めているところで、俄かに宿の外が騒がしくなった。窓から階下を確認すると、入り口付近に宿の主人と口論する武官の姿が見える。 「来たか……」 「あの黒い服の……やつだろ?」 「そうだ。よし、逃げるぞ」 「な、なぁ……まさか窓からとか言わないよな?」  そちらが動いたか……黒の深衣に赤の帯は正妃に付けられた近衛の特徴だが、正妃が私物化して手足のように使っていると聞いた。鈴麗妃が命令すれば文字通り何でもやるらしい。シアも見覚えがあるようだった。  彼らは強引に宿へ入ろうとし、主人が大慌てで喚いている。それから間もなく、主人の頑張りもむなしく窓からは彼らの姿が見えなくなり、代わりに階段の方向から声がした。    今だ。  俺はシアを背負い、その腕がギュッと首に捕まるのを感じて二階の窓から外に出た。「むりむりむり」という呪文が耳元で聞こえるが無視しながら、壁伝いに下りる。ある程度地面が近くなったところで飛び降りた。 「ひぇ……っ! いま、心臓でた!」 「黙ってろ」  裏道に入ってシアを降ろし、一緒に走り出したところで追手に気づかれた。シアの足じゃ確実に追いつかれると即座に判断し、「先に行け!」と声をかける。シアが硬い表情で頷いたのを確認して俺は立ち止まり、振り返った。  腰元の長剣を引き抜き相対すれば、身体が勝手に目の前の敵へと集中する。二人……いや三人目が来たな。俺が剣を向けていることに気づき、相手も立ち止まって剣を抜いた。
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