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道が狭いおかげで、一人ずつ俺に向かってくる。シアの方に追手がかかることはないだろう。
ガキッ、キィン――! ぐぁッ!
実力差は圧倒的なはずだった。剣の腕であらゆる窮地を脱してきた俺にとっては、宮城でのんびりやっている近衛なんて相手ではない。相手の動きを予測し攻撃を弾き返す。
しかし最後の一人になったとき、敵の表情に違和感を感じた。どこか虚ろな目をしていて、いままさに戦っている人間とは思えない。まるで、操り人形のような……
俺の意識がそれた瞬間、隙を狙ったように腹へと蹴りをくらった。
「……クソッ」
蹴りは浅い。すぐに体勢を立て直し、相手の重心が傾いたところを斬り伏せた。脚に深い傷を追わせ、立ち上がれなくなったところに止めを刺す。だが男は、どう考えても痛みと身体の構造的に立ち上がれない状態から、立ち上がった。
「なんだ!? 鬼か?」
思わず口を衝いたが、冥界に住まうという死者、鬼は空想上のモノのはずだ。
常識を外れた男の動きに狼狽えるが、今度は自分の持っている剣が光りだして目を剥く。金属部分が雷のようにパチパチと細い光を纏っている。
理解できない状況に束の間驚いていたものの、敵はまだ剣を持ち、俺に向かってくる。それでも相手の片脚の動きが鈍くなったお陰で、敵の刃が届く前に心の臓を貫くことができた。
バチッと一度だけ眩しいほどの光が男を包み、そして何事もなかったかのように光は消えた。俺の手を焼かせた男も今度こそ動かなくなっている。
「なんだったんだ……」
静寂に包まれた中で独りごちる。遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえた。
ここで考えている時間はないため、三人の遺体はすぐに見つからないよう始末した。人けのない場所でよかった。ここで情けをかけて生かしておいても……のちのち面倒になるだけだ。
大きく立ち回ったつもりはないのに、腹の古傷が痛んだ。深くはなかったものの、蹴られたせいもあるのだろう。ズキズキと身体の芯に訴えかけてくるような痛みに、つけるような薬はない。
あらかじめ教えておいた潜伏先へと急いで向かう。シアは度胸があるから、怯えて待っていることはないと思うが……昨晩の弱々しく震える姿を思い出し、足を早めた。
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