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4.
追手は始末したが、俺たちがあの街にいたことは間も無く知られてしまうだろう。
しばらく人の多い街は危険だと判断し、遠回りして山里を抜けることにした。山道は最低限の整備しかされていないが、全くの道なき道を進むよりはいい。
「とら! あれ、あそこにいるのなに!」
「タヌキだな」
「ふわふわじゃん。かわいい……」
「あれを夕飯にするか?」
「は!? だめだめだめ! 絶対捕るなよ?」
「なんでだ。鍋にすると美味いぞ?」
山で野宿をすることを伝えたとき、シアは意外にも「キャンプだ!」と不思議な単語を発して楽しそうにしていた。携帯食は用意しているが、食材を現地調達できるのに越したことはない。
ちょうど食材が通りかかったから捕まえようとしたのだが、シアは強い拒否を示した。そういえば肉は駄目だっていってたか……
「う、想像しただけで気分が……」
「嘘だろ? お前、好き嫌いしてると早死にするぞ」
「そんくらいで死ねるかよ……」
大袈裟に言ったけど、人は簡単に死ぬんだよなぁ。しかしシアの顔色が本当に悪くなっていることに気づいて、足を止めた。あーやっちまった……俺も強く反論しすぎたかもしれない。
血の気のない顔をしたシアをちょうどいい倒木に座らせ、西日が強くなってきたので早めに野営の準備をすることにした。
少し周囲を探せば小さな洞窟があり、古い焚き火の跡もあった。風も通っているし、ここなら煮炊きをしても大丈夫そうだと判断する。シアを呼び洞窟で休ませて煮炊きの準備に取り掛かろうとすると、背中に声がかかった。
「とら、おれも行くよ。水汲んだり、薪を集めたりするんだろ?」
「まだ顔色が悪い。本調子じゃないなら休んでろ」
「これくらい大丈夫だって。それに……動いてたほうが気分も良くなりそうだから」
「……倒れたら知らねぇぞ。まぁいい。水場で煮炊き用の水を汲んできてくれ」
川沿いを歩いてきたから、水場はそう遠くない。人けもないし、二人で動いたほうが早く準備できていいだろう。
薪集めはコツがあるから自分が向かうことにして、シアには水汲みを任せた。
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