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俺は自分に言い訳しながら、自分の欲望を扱いた。
これはなんてことない、当たり前の処理だ。あいつだって男だから自慰くらいするだろう。あの白く細い手で、きっと俺より淡い色をしているに違いない場所を……
「クソ!」
しばらくして洞窟に戻ると、シアは膝を抱えてじっと火を見つめていた。
焔光に照らされているせいかもしれないが、血色も戻ってきたように見えて少しほっとした。一拍遅れてシアが俺に気づく。
「おそーい! てか、とらもビショビショじゃん!」
「俺はいい。放っとけば乾く」
「髪から水が垂れてきてるって! 服が濡れるし! もう〜。ほら、ここ座って」
シアは火のそばで干していた手ぬぐいを取って俺の方へやってくる。「ここ!」と強い口調で足元を指すので仕方なく座った。
「とらって、目は金色で綺麗なのに髪は地味だよね」
「うるせぇ」
手ぬぐいを使って髪の水分を取ってくれる手付きは、乱暴な口調に反して優しい。シアって本当に、読めない男だ。
いつもは後ろに流している髪が落ちてきて、少し癖のある灰色の髪が視界に入る。……まぁ、確かに地味だな。どこへ行っても目立たなくて重宝しているが。
この不可思議な状況を目を閉じてやり過ごそうとしていると、ふと花の香りが鼻先を掠めた。この、桃の花のような香りは……シアが街の露店で買えとせがんだ石鹸だ。
途端にさっきの水浴びしていた姿が脳裏に浮かぶ。
……つーか後ろのシアというより、頭をわしゃわしゃ拭いている手ぬぐいから香ってくるな!?
「お前、この手ぬぐい自分が使ったやつだろ!」
「あ、バレた? 洗ったあとの身体を拭いたやつだからまぁまぁ綺麗かなーって。……ちょ、睨むなよ! 霞様の玉体に触れた布だぞ! むしろ光栄に思え!」
「はぁっ? ふざけんな!!」
こいつ、人の気も知らないで……! 俺だって男だ。こんなにも弱そうなナリをしているんだから、危機感ってものを切実に身につけてほしい。
くだらない言い合いをしながら夕飯を作る。薬草がたっぷり入った塩味の粥を、シアはいたく気に入って俺の分まで平らげる勢いだった。
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