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こいつに食べさせた中で一番といえるくらい質素な食事だし、下手したらシアの人生の中で一番味気ない食べ物だったんじゃないか?
「そんなことないよ。七草粥って……こっちにないか。元の世界でおれの国は年に一度、こんなやつを食べる習慣があったの。もうだいぶ廃れてると思うけど、母親が作ってくれたことがあった」
「母親が……いたのか。そりゃそうだよな」
「もう死んでる。伯父の家に住まわせてもらってたけど、未練はないかなー。いや、どっちもどっちか」
いまもかなり不憫な状況に置かれているはずなのにそんなことを言うなんて、シアは元いた世界でも不自由な生活だったのだろうか。
初めてシアが自分の話をしたもんだから、俺はここぞとばかり気になっていたことを聞いてしまった。
「稀人ってのは、なにができるんだ? お前はもともと稀人だったのか?」
「ハッ、はははっ。国が繁栄するとか言われてるんだっけ? そんなの大嘘だよ。とらも実は期待してたんでしょ? 残念だったね……おれは今も昔も凡人だ。見た目は極上だけどな!」
さっきまで穏やかな顔をしていたシアは、突然表情を失い声だけで嗤う。なにも映さない、諦めたような目だ。
「そんなつもりで言ってない! じゃあどうして拘束されてたんだ? どうして隣国からも狙われる?」
「とらも知らないんだな。みんな自分だけの秘密にしたがる。さて、観賞用じゃ駄目か? あるいはこの身体に利用価値があるのかもな? まぁ、おれがいたところで国のためになんてならないことだけは確かだと教えてやる。王も王妃もおれなんかに血眼になって、狂ってるよ……どうせなら隣国と取り合いでもして、戦争を起こせばいいんだ。そしてみんな死ねばいい」
「わかった。わかったから……もうなにも聞かない」
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