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 雨が降った日、街中だけでなく山中でも元気だったシアに異変が起きた。  口数が少なくなり、わずかな段差にも躓く。俺は何度も後ろのシアを振り返ったが、下を向く相手は気づきもしない。  こいつのことだから、疲れたり体調が悪かったりすれば「運べ」と悪気もなく命令してくると思って、俺もあえて声を掛けなかった。……洞窟での一件から、距離感を測りかねているというのも理由のひとつだ。  さり気なく速度を落とし、周囲を窺う。雨が木々の葉に当たってパタパタと音を立て、人の気配をもかき消す。シアの息遣いも聞こえないから、ぬかるんだ地面をパシャ、パシャッと歩く音に耳を澄ませた。  ……どう考えてもふらついている足音だ。この小生意気な男が、どうしてなにも言ってこない?  理不尽にも苛々がつのる。そうして俺が気を逸らした瞬間、シアが転んだ。 「うっ……」 「っ、おい! なにしてるんだ。大丈夫か!?」  とっさに受け止められなかった自分に、憤りを感じながらシアを抱き起こす。触れた手は氷のように冷たかった。雨避けの羽織を着てはいるが、明らかに冷え過ぎだ。  雲で太陽が遮られているものの、薄暗い中で見た顔もやはり青褪めていた。俺はこいつのこんな顔色ばっかり見てるな…… 「あ……ごめん。大丈夫だから、行こう」 「どこがだぁっ? 体調が悪いなら言え。倒れてもらっちゃこっちが困るって、言ってんだろ」 「おかしいな……身体だけは丈夫な、はずなのに」  シアは不思議そうな顔をしているけど、いつもの憎まれ口が出てこない時点で異常事態だ。ほんと自分のことに無頓着だな!  俺はシアをむりやり背に負ぶい、ちゃんと休めそうな場所を探し始めた。相変わらず軽い身体だ。最初は抵抗したシアも、「大丈夫なのに」と言いながら腕を巻きつけてくる。耳元で囁かれているとは思えないほど弱い声だった。  まだ日の高い時間だったのが功を奏した。  雨と濃厚な土の匂いに混じって、背中から甘い花の匂いがする。図らずもその香りに癒やされながら、俺は数時間歩きまわった。  ――そしてようやく、ぽつんと建つ山小屋を見つけたのだった。 「小さくないな……」
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