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思わず考えていたことが口に出てしまったが、『お母さん』だと? ドーンと雷の落ちたような衝撃が俺を襲う。
男らしいと娼妓にだって人気の俺が……仲間内では神獣に例えて白虎と呼ばれる俺が……おかあさん!?
「お、お前が子どもっぽすぎるんだ!」
「あはは! じゃあ可愛がって甘やかしてよ、お・か・あ・さ・ん」
「お前みたいに生意気で可愛くないやつ、たとえ自分の子どもでも愛せるかよ!」
「ああ……うん。そうだね」
もっと辛辣に言い返してくると思っていたのに、急に勢いのなくなったシアに拍子抜けした。まずい。また俺は地雷を踏んだのか?
「悪い、言い過ぎた」
「いや……おれが可愛くなくて愛されないのは本当だから」
お前は可愛い、と言おうとして口をつぐむ。ほら、それはなんか違うだろ。愛されないって……誰から? 俺がひとりモゴモゴと言葉を選んでいるうちに、シアはまた目を閉じてしまった。
うん……とにかく休ませないと。いつものシアじゃない。打てば響くような会話はお預けだ。
自分も濡れた服を着替えて、寛いだ格好になる。雨は腹の古傷をも刺激していた。じくじくとした痛みを抱えながら山の中を彷徨い歩くのはなかなかにきつかった。
最近ずっと野宿だったからな……ちゃんとした建物で、しかも誰もいない空間は休息にぴったりだ。シアの体調が戻らなければ、数日ここに滞在してもいいかもしれない。
日が完全に落ち、雨も止んだのか夜行性の鳥の鳴き声が遠くから聞こえた。
しばらく経ってシアの様子を見に行くと、眠ってはいるものの暑そうに汗をかき始めていた。額に触れると案の定熱い。
俺は肌蹴られていた掛け布を一枚だけ取り除いてからしっかりと掛け直し、一旦水場で手ぬぐいを濡らして寝室へと戻る。
汗の浮かぶ額を濡れた手ぬぐいで拭いてやると、シアの苦しげだった顔も穏やかになってきた。無意識に安堵し胸を撫で下ろす。そのまま内衣の襟元を少し緩め、首の周りまで拭った。
「あっ……」
漏れ出たような声にピタ、と手を止めてしまう。思わず顔を見ると、シアは薄っすらと目を開いていた。
発熱によって潤んだ目、赤らんだ顔、しっとりと汗ばむ肌――
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