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 胸辺りまで伸びた艶やかな漆黒の髪。青白く見える肌は陶器のようにきめ細かい。薄い二重で切れ長の目には長い睫毛が影を落とし、細い鼻と淡く色づく唇が完璧な配置で小さな顔に収まっている。  唇と同じ桃色の寝衣を身にまとい、けだるげに寝台から起き上がった稀人は、見張りを殺して現れた俺を黒曜石の瞳で見つめた。俺の引き起こした異常な状況に怯えるでもなく、花の(かんばせ)に皮肉な笑みを浮かべてのたまう。 「――へぇ、お前がおれの新しいご主人サマか? こっちは鳥籠の生活に飽き飽きしてたんだ。せいぜい楽しませてくれよ」  この通り。非常に残念なことに、稀人は美しいが……とんでもなく生意気な男だった。 「おいおいおい、話がちげぇ。絶世の美人ってもっと淑やかなもんだろう」 「はぁっ? そんなのお前の偏見だろ。おい、まさかその麻袋におれを入れる気か? この繊細なおれを? 正気かよ」  稀人はみずから進んで俺についてきた。だから仕方なく依頼者との約束地点に向かうことにする。追っ手を撒きながらでも、旅程は約ひと月。  これまでどんな難しい依頼もこなしてきた俺だが……この暴君で性格がクソ可愛くない稀人を放り捨てずに過ごせるかどうか、いまのところ全く自信がない。
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