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 シアは不自由な旅につまらないと文句を言うことはあったが、疲れたとか歩きたくないとか言われることはなかった。この見た目で、召喚される前は貴人ではなかったのだろうか?  おれは他人と行動する任務のあいだ、必要以上に相手のことを知ってしまわないよう気を付けていた。だから気になることがあっても滅多なことじゃ聞かない。  こいつが召喚されるまで何をしていたのか、召喚されてから稀人として何をしてきたのか……気になっても。 「ねぇ、とら! あれなに? めっちゃうまそーな匂い!」 「おい声を抑えろ。いま食えるわけねぇだろ」 「もう一生出会えないかもしれないじゃん! おれの従者だろ、食わせろ!」 「従者じゃねぇ、護衛だ! お前、さっき昼飯食ったばっかりじゃねーか……」  シアは街を歩かせればとんでもなく何にでも食いつく。召喚されてから外に出たことがなかったんだろう、幼い子供さながらの好奇心に手を焼いた。  こいつ、俺に拉致されたって自覚ゼロだな!  しかもこの細い身体のどこに入っていくんだか、恐ろしいほど食べる。  煩いから拒否するよりさっさと買ってやって、人目に付かない場所で与える。食事をねだる雛にせっせと運んでいる気分だ……おれはこいつの母親か? 「あんまり目立つと、すぐに見つかって連れ戻されるぞ」 「別に……おれからすればどっちに居たって一緒だろ? 行った先がより()()だなんて、誰にわかる?」 「……そうだな。だが、外にいられる時間が少なくなるのは望んでいないだろう」 「確かに! ちょっと我慢するか〜〜。あ、とら! あそこのあれ、甘いものか?」  我慢とは?  だが俺は人を不幸にしたいわけじゃない……悪人じゃないならなおさら。シアを初めて抱えて運んだとき、予想していた重みがなくて驚いたことが忘れられない。  相変わらず肌は青白いし、この軽すぎる身体に少し肉がつくくらいは食べさせてやったって、別にいいだろう。 「おい、肉も食え」 「あ、おれ肉は食わねぇ。魚を寄こせ」 「~~~ふざけんな!」
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