54人が本棚に入れています
本棚に追加
シアは不自由な旅につまらないと文句を言うことはあったが、疲れたとか歩きたくないとか言われることはなかった。この見た目で、召喚される前は貴人ではなかったのだろうか?
おれは他人と行動する任務のあいだ、必要以上に相手のことを知ってしまわないよう気を付けていた。だから気になることがあっても滅多なことじゃ聞かない。
こいつが召喚されるまで何をしていたのか、召喚されてから稀人として何をしてきたのか……気になっても。
「ねぇ、とら! あれなに? めっちゃうまそーな匂い!」
「おい声を抑えろ。いま食えるわけねぇだろ」
「もう一生出会えないかもしれないじゃん! おれの従者だろ、食わせろ!」
「従者じゃねぇ、護衛だ! お前、さっき昼飯食ったばっかりじゃねーか……」
シアは街を歩かせればとんでもなく何にでも食いつく。召喚されてから外に出たことがなかったんだろう、幼い子供さながらの好奇心に手を焼いた。
こいつ、俺に拉致されたって自覚ゼロだな!
しかもこの細い身体のどこに入っていくんだか、恐ろしいほど食べる。
煩いから拒否するよりさっさと買ってやって、人目に付かない場所で与える。食事をねだる雛にせっせと運んでいる気分だ……おれはこいつの母親か?
「あんまり目立つと、すぐに見つかって連れ戻されるぞ」
「別に……おれからすればどっちに居たって一緒だろ? 行った先がよりマシだなんて、誰にわかる?」
「……そうだな。だが、外にいられる時間が少なくなるのは望んでいないだろう」
「確かに! ちょっと我慢するか〜〜。あ、とら! あそこのあれ、甘いものか?」
我慢とは?
だが俺は人を不幸にしたいわけじゃない……悪人じゃないならなおさら。シアを初めて抱えて運んだとき、予想していた重みがなくて驚いたことが忘れられない。
相変わらず肌は青白いし、この軽すぎる身体に少し肉がつくくらいは食べさせてやったって、別にいいだろう。
「おい、肉も食え」
「あ、おれ肉は食わねぇ。魚を寄こせ」
「~~~ふざけんな!」
最初のコメントを投稿しよう!