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3.

 俺たちは西の隣国である瑞雲(ずいうん)国に向かっている。  一番の難関は王都のある桜州を抜けるところだと考えていたが、意外にも数日間追っ手がかかることはなかった。俺は夜な夜な宿の外にでて情報収集を重ねる。    さすがは王都。桜州の歓楽街は華やかで賑やかしい。芸に秀でた妓女の唄い声を肴に、酒屋の軒先の卓で白酒を飲む官人も多くいる。  桜栄国の官吏はみな白い深衣を着ているためわかりやすく、六部は帯の色で見分けることができる。兵部の武官だけは黒の深衣で、国王や王妃の近衛には特別な帯が与えられているという。  俺が後宮への侵入時に顔を見られたやつは稀人の部屋の前にいた護衛のみで、もう始末してあるから堂々と行動しても何の問題もない。  運のいいことに、大々的に王朝からの御触れで捜索されるということはなさそうだった。王が後宮にまで入れて大切にしていた稀人を奪われたのに近衛が動かないとは……この国の朝廷が腐敗しているという噂はあながち嘘ではないようだ。  しかし後宮がざわめいているという話は流れてきた。正妃である鈴麗(リンリー)妃がご乱心?  とにかく、噂の広がりやすい王都からは早々に離れたほうがいい。こっちの餌がとにかく目立つのだ。  暗褐色の髪が多いこの国で黒い髪なんて珍しくないのに、シアのあんな絹糸みたいな細い髪、見たことがない。  薄布で顔と一緒にほとんど見えないようにしているのに、隙間から見える髪や白い顔の口元、透ける顔貌にすれ違った者の何人かが必ず振り返る。護衛らしく俺が睨みを利かせ皆が慌てて目を逸らすまでが一連の流れだ。 「今日は早めに帰るか……」 「なぁにお兄さん、もう帰っちゃうの? そのいい身体、もっと触らせてよ」  情報収集のために妓楼で一杯やっていたが、たまには早く帰ることにする。俺は派手な筋肉が付きにくいおかげで隠密にも向くわけだが、仕事の依頼主や相対する敵からは舐められたりすることが多い。妓女の方がよっぽど服の下の身体に聡いのが可笑しい。    身体に纏わりつく手を払いながら、部屋で眠っている男のことが脳裏に過ぎる。女のような肉感はないが、シアの方がよっぽど綺麗ではある。あれに化粧をしたらとんでもなく…… 「やめだやめだ!」
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