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 ほうまつ-むげん【泡沫夢幻】  人生のはかないたとえ。水のあわと夢まぼろしの意から。  (三省堂 新明解四字熟語辞典)  ――――――――――  俺がその依頼を受けたのは、本当に偶然で、気まぐれによるものだった。 『宮城に幽閉されている稀人(まれびと)の奪取』  隣国の密使はどこにも属さない傭兵である俺の噂を聞きつけ、わざわざ時間をかけ休暇中の俺の居場所を探り当てて依頼してきた。  俺の居場所を、信頼する仲間が不用意に漏らすとは思えない。おおかたその内容に俺が興味を持つだろうと、あえて仕向けたんだろう。  この世界には呪術というものがある。力のある呪術師に師事し特別な修行を積むことで、ごく一部の人間が超自然的な力を得ることができるのだ。  決して数の多くない呪術師は陰陽五行の要素“陰陽・木火土金水”に従って儀式をおこない、天候を操ることで豊穣を、体内の気を操ることで健康をもたらすことなどができる。    その自然現象まで凌駕する力を得るため、どこの国にも王朝お抱えの呪術師が存在している。国王が自身のためのみに呪術を用いらせることもあるし、純粋に国のために呪術師を頼ったり、理由はさまざまだ。    呪術師の行使する力の中で禁忌とも、幻とも言われている儀式が稀人の召喚であり、時空の理をも捻じ曲げるその儀式は当然容易でない。  多くの生贄が必要という噂もあり、まともな国はそれを求めないしまともな呪術師は見向きもしない術である。しかし、もし召喚できればその王朝は繁栄を極めるという伝説があるのだ。  歴史上には幾人もの稀人が別の世界から召喚されてきたという。彼らは特別な力や知識を携えていて、王朝に利を招くことができた……らしい。しかし多くの情報は秘匿され、文献に残っている情報も少なく、どれも噂の域を出ない。  各国各地に散らばる噂では、逆にあっという間に国が滅びてしまったとか、稀人自身が滅ぼしてしまったとか、そういう話もあるのだ。
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