<1・Memory>

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<1・Memory>

「究極魔法って、どんなのかなあ」 「ん、どうしたのルリちゃん?」  それはアメリアが十五歳の誕生日を迎えたばかりの秋のこと。ふと学園の噴水広場の前で、親友のルリがそんなことを言ったのである。  自分達は魔法少女。魔法少女とは、魔女の見習いを意味している。  この世界では魔女は、貴族以上の身分として取り立てられ、王様にも重宝される存在だった。一人前の魔女になれば家族の身分も上がり、莫大な支援を受けることができるのだ。  それゆえに、少しでも魔法使いの素質がある少女たちは、魔女になるべくこの魔法学園の扉を叩く。アメリアも、そして親友のルリもそれは同じなのだった。 「いや、一人前の魔女か、見習いの魔法少女かっていうのはさ。究極魔法を伝授されているかどうかによって決まるって話じゃない?」  水面に、心配そうな顔の金髪の少女と、緑髪の少女が映っている。金髪がアメリアで、緑髪がルリだった。ルリのウェーブした豊かな緑髪が、風でさわさわ揺れている。相変わらず綺麗でいいな、とアメリアはついつい思ってしまった。自分の髪はくせっ毛がすぎて、あまり長く伸ばすのに適していない。今のようなボブヘアが精々だ。本当は彼女のように長くして、いろいろな髪型に挑戦してみたいのに。 「究極魔法を貰えないと、この学園を卒業できないし、魔女にはなれない。……そこまで価値のある凄い魔法って、一体なんだろうって思ったのよ」  はあ、とルリはため息をついた。 「わたし達、小学校から中学校まで、九年も寮生活して学んでるのよ?親元離れて授業内時も訓練と勉強ばーっかりで。で、こんなに頑張ってきたのに、最後の最後に卒業試験で失敗して魔女になれないなんて、そんな酷い話ある?」 「それは、ね。私も思ってるけど」 「しかも、卒業試験って毎年内容が変わるから去年の卒業生の話を聞いてもなーんにも参考にならないんですって。しかも何年か一度、卒業生が一人しか出ない年があるのよ?他の生徒はみんな死ぬか行方不明って。どんだけハードな試験なんだか」 「あー……」  その噂は、アメリアも聞いたことがあった。確か、五年くらい前の試験だったはずだ。卒業して魔女になれたのが一人だけの年があった、という。  どんな試験内容だったのかはわからない。ただ、魔女になったその女性も大怪我をしていたというから、相当厳しい試験だったのは間違いないようだ。  私もルリも、この学園では頑張って勉強してきている。特にルリは私なんかよりずっと成績が良い。それでも、万が一そんな厳しい試験が当たったら――と、不安に思ってしまうのも無理はないことだろう。 「大丈夫だよ、ルリちゃん!」  こんな時。彼女を励ますのは私の役目だ。だって小学校の時から、いっつも彼女に助けられて、支えられて今日まで生きて来たのだから。 「ルリちゃんはクラスでも上位に入るくらい成績いいし!落第すれすれの私と違って、きっといい成績で卒業できるってー!もっと自分に自信を持ちたまえよ、なー!」 「もう、アメリアってば。そういうアメリアこそ、頑張らないとダメじゃない。魔女になって、家族を助けるんでしょ?」  だから、と彼女は私の手に手を重ねて言ったのだった。 「絶対二人で卒業しましょう。二人ならきっと大丈夫よ。アメリアだってずっと頑張ってきたって、わたしよく知ってるんだから」 「ルリちゃん……!」  そんな会話をした、アカモミジが舞い散る広場。少し寒かったせいで、このあと二人仲良く風邪をひいて、先生に怒られたのはいい思い出だ。  そう、大好きなルリと一緒ならば、アメリアにとって失敗さえ素敵な思い出の一つだったのである。これからもそんな日々が末永く続くはず。卒業しても、魔女になって王様に仕えることになっても、自分達の友情は永遠であるはずだと。  ああ、それなのに。  それなのにどうして、こんなことになってしまったのだろう?
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