ごますり

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ごますり

「わん!わん!わん!」  相当太った飼い犬、ゴローが父親の足にすり寄る。 「なんだ。またまとわりついて。おい。エサだとよ」 「はい」息子が応じる。「ゴロー、ゴロー、こっちおいで」 「わん!わん!きゅーん」  母親が言った。 「ゴローはごますりが上手ねえ」 「そうだよ」息子がドッグフードを用意しながら応えた。「野生に戻ったら絶対生きていけないね。太ってて、エサを見つける能力がなくて」  父親が言う。 「特技はごますりだけだもんな」 「きゅーんきゅーん。わんわん!」  母親が笑う。 「ペットとしてしか生きられないわね」  息子がエサにがっつくゴローの頭をなでながら言った。 「ごますりしかできないダメ犬なんだよ、こいつは」  そんなある日。  山あいに旅行に出かけた家族とゴローは、はぐれてしまった。  父親の仕事の都合があるので、どうしても日程どおり帰らなければならない。  息子が嘆く。 「うえ~ん。ゴロー、ゴロー、さよならなの?パパ、ママ。ノラじゃ絶対にゴローは死んじゃうよ。あいつは自分じゃエサを見つけられない、ごますりしかできない弱い奴なんだ」  後ろ髪引かれる思い。  だが仕方ない。  家族はゴローを残し東京へと帰った。  山中。  ゴローは途方にくれていた。お腹もすいている。鼻も全然利かない。  すると、野良犬の集団がやって来た。  ゴローは揉み手で近づいた。 「へへへ。こんちまたまた。親分さんはどちらで」 「ーーオレ様だ」  一匹が前に出た。 「おお。やはり。威厳が違います。立派でりりしいお顔立ち。精悍な体つき。あなた様こそリーダーにふさわしく、尊敬すべきお方と存じます。頭もよろしいんでしょう。目の輝きがちがうでゲス」  野良犬の親分の表情がゆるんだ。 「なんだ、なんだ。調子のいい奴だな。がははは。面白い奴。がはははは。ごますりのうまい奴め」  親分は手下に命じた。 「おい、誰かこいつに、とってあった骨付き肉を食わせてやれ」
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