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今日は学校からそのまま楓の家に遊びに来て、今はウーバーで頼んだ夕飯のピザ待ちだ。
菜穂さん――楓のお母さんは友達と食事の約束があるとかで、俺たちと入れ違いで出かけていった。
「最終ポスト、一ヶ月以上前じゃん」
楓のプライベートアカウントを開くと、最後の投稿はハロウィンのカボチャだ。
仲良い先輩の一人がバカみたいにでかいカボチャを学校に持ってきたから、みんなでジャック・オー・ランタンを作って部室に飾った。
楓のポスト一覧は、景色や動物がほとんど。
青空とか夕焼けとか、紅葉、海、どっかの犬、野良猫。
楓本人の画像もない。唯一の人物といえば、一緒に行った海の画像の端っこに、ブレブレで映り込んでる俺の腕くらい。こんなん、人物って言えないか。
「……個人アカは、本当に好きなものしかし載せないんだよ」
楓がもたれていた身体をソファから起こして、俺を見る。
大きな目に見つめられて、どきりとする。
楓の手が伸びてきて、俺の頬に触れた。
「なに……?」
「傷、消えたな」
その言葉に、今度は違う意味でドキリとする。楓には、ジェルネイルで付けられたあの傷について、今までスルーされてたのに。
「あー……うん、ううん?」
傷なんてあったっけ?とか小声でぼそぼそ言う俺の頬から、楓が手を離す。
「……この前、武ちゃんが言ってたやつ」
そして、俺から目も離して呟いた。
「武瑠?」
「斗真が、好きな人のことすげぇ好き、って」
「……あ、あー、あれ。あんなん、武瑠の冗談だって。俺、好きな奴とか……いねぇし」
いるけど。お前だけど。かれこれ十年以上好きだけど。
そんなの言えるわけないから、誤魔化して笑う。
「楓だって、知ってんだろ。俺、彼女とか全然いないじゃん」
「……お前、セフレばっかだもんな」
「う、ええ、っと……まぁ、それは、……その、それはそれで……」
「……じゃあ、好きな人、いないんだ?」
「……いないよ」
……うう。楓に嘘つくの、すげぇ苦痛。顔見れない。
だけど、本当のことなんて言ったら終わるし。
楓からの反応がなくて顔をあげると、目が合った。
その一瞬、確かに楓の綺麗な顔には、悲しみの表情が浮かんでいた。
けれどそれはすぐに、小さな笑みに変わる。
「そっか」
そう呟く楓の声も、いつも通りみたいに聞こえる。
「……楓?どうし――」
――ピンポーン、ピンポーン。
部屋に鳴り響くインターフォンの呼び出し音が、俺の言葉を遮った。
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