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「は?……てか、え……二十(はたち)だって聞いてーー」 「こいつ、十七だよ。未成年」  ごねたら殴る。むしろ殴らせろ。  この、どうしようもない気持ちの捌け口にさせろ。  そんな思いが顔に出ていたのか、男は怯えたように目を泳がせ「未成年なんて知らなかったんだよ」と言って、足早に逃げて行った。 「……斗真……」  振り返ると、楓が呆然と立ちすくんでいる。  無言で楓の腕を取り、そのまま下品な城へ入った。  何も喋らず無人のエントランスを抜け、適当に部屋を選び、エレベーターに乗って降りて、部屋に入った。  楓も、ただ黙って俺に腕を引かれていた。  半分以上がベッドに占拠された室内には、ソファもない。  枕元にはゴムとローション。  本当に、ヤるためだけの部屋。  こんなところに、楓はあのスーツと来ようとしてた。  血管がぶちギレそうになる。  深呼吸してベッドに座り、楓にも「座って」と低く声をかける。  楓が俯きながら、俺と少し離れた場所に腰掛けた。 「……もっと、こっち」  腕を引いて、隣に座らせる。  バケハとマスクを取ると、楓の顔がちゃんと見えた。  迷子みたいな心細そうな表情に、こっちが泣きそうになる。 「……斗真……どうして……」  消え入りそうな声で、楓が呟いた。 「……どうして、ここにいるか?」  頷く楓に、静かに息を吐く。 「昨日、楓のスマホ画面に、メッセージが出てたんだよ。時間と場所、会えるの楽しみって内容」 「……マジか……」  楓が笑い損ねたような吐息を漏らす。 「ほんと、斗真には……隠し事できないな……」 「……あのチャラいスーツ、誰?」 「……マッチングアプリの相手」  ――大体、そんなとこだろうとは思ってた。あのメッセージとか、典型的なアプリのやりとりっぽかったし。  そうであってほしくなかった、って俺の気持ちは、裏切られてばっかだ。 「なんでそんなアプリ使ってんだよ。あいつ……男だよな?」  俺の問いかけに、沈黙が落ちた。  瞬きを忘れた長い睫毛から、楓の緊張が伝わる。 「……俺、莉子とエッチしたいとか思わないって言ったけど、今まで他の彼女にも、そういうのあんまり……思ったことなくて」  楓が視線を揺らし、一度唇を噛んだ。  ベッドシーツをいじりながら、再び口を開く。 「……それで、ちょっと、いろいろ考えて……俺、男が好きなのかなって、思って」  その言葉に、脳がびりびりと痺れるような衝撃を受けた。  ――男が好き……って何?あんなに散々、女の子と付き合ってたのに?
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