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 楓は俺の幼馴染みであり、初恋の人であり、そしてその初恋は、今も継続中で、多分一生、継続中だと思う。  叶うこともなく、消えることもなく。  周りの先輩達が声をかけてくるのに笑顔で返して、楓の隣に向かう。 「斗真、どした?」  「なんでカーデ着てないの?」 「あー……忘れた」  楓が少しだけ唇を尖らせ、視線を反らす。  ――なんかあったな。  ただ忘れたんじゃないことに気づいたけれど、とりあえず今は追及せず、「これ着て」とパーカーを渡した。 「え、でもお前が寒いじゃん」 「俺ブレザーあるしいいよ」  言いながら、楓にそれを着せてやる。 「斗真やさしー。ありがと。飴やる」  楓が制服のパンツから苺みるくの飴を取り出し、俺の手に乗せてくる。  ポケットに飴入れてるとかなんだよ。可愛い。 「楓、今日一緒に帰れる?」  さりげなく、飴と一緒に楓の手を握りながら尋ねた。 「ごめん、今日は無理」 「……彼女?」 「バイト」  理由が彼女じゃないことに、ちょっと安心する。  そんな自分を馬鹿みたいだなと思う。  手を離して、名残惜しさを誤魔化すように楓にフードを被せた。 「おけ。んじゃね」 「おー。パーカーありがと」  楓が、指先の少しだけ出た状態、いわゆる萌え袖で手を振る。  マジかわいい。好き。  言葉を飲み込み、チャイムを聞きながら教室へ戻った。  ラーメン屋から出た所で、スマホが鳴った。  『夜、斗真の家行っていい?』  楓からのメッセージに、なにか考える前に指が勝手にオッケーのスタンプを送る。 「わり。俺帰る」 「……ニヤけすぎじゃね?」  メッセージの差出人が誰か言っていないのに、武瑠が「楓先輩によろしく」と笑った。  この後バッティングセンターで食後の運動をするらしい友人らと別れ、家へ急ぐ。  ――やっぱあいつ、なんかあったな。いつも家に行っていいかなんて、確認してこないし。  昼休みの、カーディガンを忘れたと目を逸らした楓を思い出す。  自宅の団地前で、楓に『着いたよ』とメッセージを送る。  すぐに既読が付いて、その二分後、目の前のマンションのエントランスから楓が出て来た。  団地の二階と、その向かいにあるマンションの七階。俺が五歳の頃、ここに引っ越して来てからのご近所さん。  「もう飯食った?」 「バイトの後みんなで食べて来た。斗真は?」 「武瑠たちとラーメン。楓、足元気ぃつけて」  話しながら団地の階段を上がる。階段電灯は一ヶ月前から切れかかっていて薄暗い。
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