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「いいね。イケメン」  楓が笑う。細められた目は、楓の心の温かさとか優しさが、滲み出ているみたいに綺麗。  その目に映されると、すごく大事にされてる気がして、気持ちが浮わつく。  わかってる。楓は俺を大事に思ってくれてる。――幼馴染として。 「ありがとう」 「うん。斗真もパーカーありがとね」  楓がマフラーの入っていた紙袋を寄越す。中には昼休みに俺が貸したパーカーもあった。 「……あのさ」  それを受けとり、本題を切り出す。 「楓、なんかあったっしょ」 「……なんかって?」 「……今日、カーデ着てなかったことに関係する、なんか」  じっと楓を見上げると、綺麗な形の眉がわずかに下がる。 「……お前、本当名探偵よな。斗真に隠し事出来た時ないわ」  楓は少し笑って、目を伏せた。 「俺、莉子と別れたんだよね」  楓のため息まじりの声に、「もう?」という言葉を飲み込む。 「……また、楓は私のこと本当に好きなのパターン?」 「パターンとか言うな。……まぁ、正解だけど」  ベッドに横になって、楓が唇を尖らせる。  こいつが別れる理由は大体いつも同じだ。  彼女が「別に楓は私のこと好きじゃないでしょ。もう辛い、無理」となって、楓は、彼女が待っているであろう言葉「そんなことない、本当に好きだよ」ではなく、「わかった。別れよ」とあっさり答えて終わる。  楓はモテるからよく告られて、すぐ付き合って、すぐ別れる。今回の莉子さんは、三ヶ月か?それでも長い方だと思う。  楓が初めて彼女を作った時、俺は心底打ちのめされて、反抗期のお手本みたいな非行に走った。  今思えばマジで安易ではあるけど、酒と煙草に手を出したり、ピアスの穴も五つ開けた。  無駄な喧嘩を売って買って、童貞を捨てたのもこの頃だ。毎日、世界の破滅を割とガチで願っていた。  俺の非行少年ムーブが落ち着いたのは、楓が俺に「由美さんを悲しませるような斗真は嫌い」と、珍しく真面目に怒ったからだ。  由美さん、ってのは俺の母親なんだけど。  楓に嫌われたら生きていけないし、それに、母さんを悲しませるのは確かにないな、と思ったから。  来るもの拒まず去るもの追わずな楓に、今でこそ慣れてはきたけれど。  それでもやっぱり、楓に彼女が出来るたびへこむし、楓には悪いけど、別れれば嬉しい。  次の新カノ紹介イベントはいつ襲来するかな、なんて考えていると。
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