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「俺……当分、もう誰とも付き合わない」  楓が今までにない発言をする。 「……え、なんで?……誰かに告られてもOKしないの?」 「うん。……今はいいわ」 「なに……今回、結構へこんでる?」  莉子さんは俺も何回か会ったことがあるけど、美人で性格もサバサバしてて、案外甘えたな楓と合いそうな感じの人だった。周りも今回は続くだろって言ってたし。 「へこんでるってか……莉子なら長く付き合えるかなって、ちょっと思ってたんだよね。あいついい奴だし、気も合うし。……でもそういう……キスとかエッチとか、全然したいと思わなくて」 「……ああ、そう、なの」 「うん。別れた日も、莉子に誘われたんだけど、……そんな気になれなくて。いつもみたいに断ったら、いい加減にしてってキレられた」  ベッドに転がっていたクマのクッションを抱きしめながら、楓が言う。 「何回も女から誘って断られる気持ち分かる?って言われて、馬鹿にしないでってコーヒーぶっかけられて、おしまい」 「え……楓コーヒーかけられたの?大丈夫かよ」 「冷めてたし平気。カーデはダメになったけど」 「……あー、それで……」  いつものカーディガンを着ていない理由はそれか。 「……カーデとかは、別にいいんだけどさ。莉子には、可哀想なことしたと思うし……」  ぎゅうぎゅうと抱きしめられてるクマの顔は、間抜けに歪んでいる。  楓が天井を見上げ、ぽつりと呟く。 「俺だって、ちゃんとみんな好きなのになー……なんで上手くいかないんだろ」  ――みんな好き、だからじゃね?  思ったけど、言わなかった。  楓の「みんな好き」の中に、楓の彼女たちが求める“特別な好き”はない。  そのみんなの中には、俺も入ってる。  みんなの中の一人。特別じゃない中の一人。  俺はずっと、楓だけが特別なのに。 「じゃあ、彼女いない間は俺と遊んでよ」  ベッドに乗り上げ、楓の胸にあるクッションに頭を乗せ言った。  加減しながらぐいぐい体重をかけると、楓が「重い」と笑う。 「斗真とは彼女いる時もかなり遊んでんじゃん」 「もっとだよ。もっと遊んで」 「あは。いいよ」  身体を反転させて上から覗き込むようにすれば、楓の細められた目に俺が映る。  あー、くそ。マジで好き。  特別になれなくても。ずっとずっと、楓だけが好き。  
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