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30年後、俺は突き抜けるような青天の空の下、どこまでも続く青々とした草原の中に立っていた。
――ここは、どこだ?
呆然としていたその時、後ろから声が聞こえた。
「久しぶり!」
この空と同じくらい澄んだ、女性の声だ。俺は驚きから、目を見開いた。
――この声を知っている。
「由美!!」
俺は、勢いよく後ろを振り返った。
そこには、大学生の時のままの姿の由美が立っていた。
「由美……」
「ん? どうしたの?」
由美の顔を見たら、急に身体から力が抜けた。
「お前、変わらないな」
頬が緩むのがわかる。俺は今、きっと情けない顔で笑っているだろう。
「神崎くんだって変わらないよ」
「いや、俺はもうしわくちゃの爺さんだよ」
「そんなことないよ」
そう言うと由美は近づいてきて俺の手を両手でとり、その手を見せるように持ち上げた。少しひんやりとした手の感触が伝わってくる。
「えっ……」
そこには、見慣れたしわくちゃの手ではなく、若い男の手があった。
「ねっ!」
俺の手を持ったまま、おかしそうに由美が笑いかける。
「ねぇ、あそこにベンチがあるの。また、いっぱい話そうよ!」
由美が俺の手を引っ張りながら、後ろのほうを指差す。
「あぁ……いいよ」
由美は俺の手を引き歩き始めた。俺は繋がれた手を見ながら、ふと結婚詐欺をしていた時のことを思い出した。
――こいつは本当に由美なのだろうか?
そんな疑問が沸いた時、不意に由美が立ち止まり、振り返った。
「神崎くん、何も心配いらないよ」
そう言って笑いかけてきた顔は間違いなく由美だが、なぜだか俺の背には嫌な汗が伝っていった。
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