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由美が言う仲直りとは、俺たちが別れた原因の喧嘩だろう。
いや、あれは喧嘩というより、俺の癇癪だ。由美は悪くない。
由美と付き合っていた20年前の12月半ばの朝。俺はバイトに行こうと学校と反対方向の駅へ向かって歩いていた。そこへ由美が現れたのだ。
「辰也! また授業をサボるの? これ以上サボったら単位取れないよ! 留年しちゃうよ!」
そう言って、俺の腕を掴んだ。
――また始まった。
俺は由美の忠告が鬱陶しくて堪らなかった。
「お前には関係ないだろう。皆、俺を頼りにしてるんだ。俺がいないと現場が回らないんだよ!」
「でも、バイトじゃん! 辰也は学生なんだから、ちゃんと授業は出なきゃダメだよ!」
「うるさいな!! お前みたいなイイ子ちゃんとなんかやっていけねぇ!」
俺はそう言って由美の手を振り払った。彼女の口が小刻みに震え、目と鼻がみるみる赤くなる。
――あぁ、言いすぎた……。
自分の失言に気づいたがもう遅い。俺は勢いに任せ、次の言葉を言い放った。
「もうお前とは終わりだ。じゃあな!」
それっきり、由美とは会っていない。由美に会うことを考えると気まずく、バイトを言い訳にその後の授業に一切出なかった。
そして留年が確定し、両親に激怒された。両親の言うことを聞いて翌年度は大人しく大学に通えばよかったのだが、怒った両親に反抗した俺は、大喧嘩をしてそのまま家を飛び出し、大学を退学した。
バイトのツテを頼って就職したが、世の中そんなに甘くなかった。俺は職を転々とし、ついには詐欺まがいのことをするようになっていた。
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