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「そっか。ありがとう」
そう言うと、由美は目尻を下げて柔らかく笑った。その笑顔に、懐かしさが募る。
――本当に変わらないな。
今からでも、大学時代に戻れそうな気がした。
時間はあっという間に過ぎ、日が傾きかけていた。俺は、ゆっくりと由美に話しかけた。
「今日は話せて良かったよ。でも、そろそろ帰らないといけないな。」
由美がテーブルの上に置いた手をきゅっと握りしめるのが見えた。
「……うん、そうだね。私も楽しかったよ。ありがとう」
由美が、少し離れたテーブルに座っていたダンナに小さく手を振った。それを合図に、由美のダンナが近づいてきた。
「楽しかった?」
「うん!」
ダンナが由美に優しく話しかけ、由美が子供のように返事をする。
――仲いいんだな。
俺たちが付き合っていた頃とは明らかに違う、優しく温かい関係がそこにはある気がした。少しモヤモヤした感情が胸に広がっていく。
しかし、その感情は由美の発言で霧散することになる。
「あ、私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
由美がそう言うと、ダンナは明らかに動揺した。
「え? 大丈夫? 俺、ついていこうか?」
ダンナのこの発言には、俺は驚き、口をポカンと開けてしまった。トイレにまでついていこうかとするなんて、コイツ、実は頭がおかしいのか?
「もうっ! 大丈夫だよっ!! トイレくらい一人で行けるからっ!!」
「ごめん、ごめん。でも、心配で……ドアの前までついていくよ」
「大丈夫って言ってるじゃん!! ここで待っててよっ!!」
謝りながらも、なおも引き下がろうとしないダンナを、由美は怒りで制して、トイレへと向かった。
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