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13 迎え撃つ準備
「あっちじゃ結構よくあることなんです」
アランがやや苦笑しながら言う。
「そ、そうなんですか……」
「ああ、強敵同士を相打ちにさせといて、横から自分がおいしいとこぶんどってやろう、ってやつな」
「あ……」
ミーヤにも何か覚えがあったようだ。
「なんだよ、なんかそんなの知ってんのか?」
「ええ。やはり神話でそういうのがありました」
「へえっ」
「俺たちはあんまりそういうの詳しくないですけど、やっぱりミーヤさんは神話とか詳しいんですね」
「そうなんでしょうか」
「さすが宮の侍女だよな、そういうの勉強すんだろ?」
「ええ。宮に入ってすぐはまだみんな幼いので、最初はそんな神話の本などから入ります。絵本なんかもあったりしますね」
「へえ」
そういう教育を受けたことがないトーヤとアランは素直に感心する。
「そんでだ、ちょっと話はそれたが、まあ神様の世界でもそういうことするってな感じなわけだな」
「そうなりますか」
「おそらくだが、この国でも神様だの王様だのってのには仕掛けてこなくても、下々では結構あったのかも知れねえぞ」
「そうなのかも知れませんね」
侍女は幼いうちに宮に入ると、後は俗世と接することがほとんどなくなる。リルのような情報通の「行儀見習いの侍女」もいるし、全く外からの情報が入らないということはないが、それでも大部分の侍女たちには、そのような話は「外のこと」もしくは「お話の中のこと」でしかない。
「私はあまりにも物を知らなすぎると、八年前につくづく思い知ったはずだったのに……」
「誰だってそうじゃねえか?」
唇を噛みしめるように口にした言葉にトーヤはなにげなく軽く返す。
「人間、自分が今いる場所以外のことは、案外分かんねえもんだと思うぜ」
そのなにげなさにいつもホッとさせられていたのだったと、ミーヤはそうも思い出した。いつもそうだった。おかげで少し心が軽くなる。
「それもそうかも知れませんね、そう思っておきます」
「ああ、そういうこった。そんでだな、そういうことが今、このシャンタリオで起こってる」
話がさらりと本筋に戻った。
「まさかそんなこと考えてるとは思わねえから、そんで一体どういうつもりだと思ってた。まさか三番目の勢力がマユリアとはな」
「信じられません」
「だが、そう考えると辻褄が合うんだよなあ」
アランが無言でトーヤに頷く。本当にこの2人はそう判断したようだ、ミーヤもそう認めるしかない。
「そういえば、シャンタルとベルはどうしたんです?」
ふと気がつく。いつもならここにベルが何か色々と言ってくるのに今日はないと思った。
「ああ、あいつらなら昼寝してます」
「一緒にですか?」
「違いますよ!」
なぜだかいきなり、アランがぐっと手を握って声を大きくした。
「シャンタルは主寝室、ベルは従者部屋です!」
「そ、そうなんですね」
ミーヤは見たことがないアランに少し面食らっている。
「そのはずだよな? ちょっ、見てくる!」
アランはトーヤに木刀を預けると、急いで従者部屋へと移動していった。
「あの、どうしたんです?」
「いや、あのな」
トーヤが小さく笑いながら、最近アランがベルがお年頃だとうるさくなった、と説明した。
「そういうことなんですか……」
ミーヤがはあっと一つ息を吐き、
「そういえばベルは13歳と言ってましたよね。もう結婚もできる年頃ですものね」
「まだですよ!」
今度は背後から声がして、思わずミーヤの体がビクリとした。
「あっちじゃ結婚は15からですから!」
「そ、そうなんですね」
アランはどうしてこんなに必死なのだろう。ミーヤが反論もできずそう考えていると、違う方向からクスクスと笑い声がした。主寝室からシャンタルが出てきたのだ。
「あ~あ、よく寝た」
そう言って一つあくびをすると、
「もう訓練は終わったの?」
トーヤとアランにそう聞いた。
「おう」
「それで、なんでベルの結婚の話になったの? ミーヤが縁談でも持ってきたの?」
「ちげえよ!」
「違うのか。それじゃあどうしてそんな話になったの?」
「マユリアの婚姻の話からだよ!」
「そう」
シャンタルはそう言われても表情一つ変えない。そしてもう一つ大きく伸びをすると3人に近づいてきた。
その優雅な足取り。まるで悩みなどなにもないという「精霊の園」の、まさに精霊のようだ。
「おまえとベルにも話しただろうが、神官長たちの企んでることがなんとなく分かったかもってな」
「ああ、あれ。困ったことになったよねえ」
大して困ったことでもないように言うのがさすがだ。
シャンタルはソファまで来ると、最近の定位置に優雅に腰を下ろす。
「リュセルスの民がここまで襲撃してくるかも知れないんだって」
シャンタルはミーヤに話しかけているようだ。
これまであまりそういうことはなかった。基本、シャンタルはあまり自分から話しかけるということがない。仲間内では分からないが、見ている限り、自分から行動を起こすのはほぼベルにだけだと言ってもいいだろう。
「とりあえず痛くなる魔法はかけてもいいよね? そんなにひどく襲ってはこないだろうから、お返しもそう大したことはないと思うし」
まだ半分神様の精霊が、ニッコリ笑いながらとんでもないことを口にした。
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