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「ボクらさ、もうこれっきり、会えなくなっちゃうのかな」
うつむいた康介が、かろうじて届く声で呟いた。
五年生の宿泊学習が終わってすぐの事だった。康介のお父さんが転勤で遠くへ引っ越さなくちゃいけなくなったって。一か月後には引っ越すんだって。
それを聞いて寂しい気持ちはあったけど、泣いても喚いても容赦なく、引っ越しの日はやってきたんだ。
「ボク、幸弥とずっと一緒にいたいよ。引っ越しなんてしたくないよ」
ぽろっと、ひとしずく零れたら、康介の瞳からはとめどなく涙が流れ続けた。そんなのオレだって一緒だ。いつだって一番の友達で、ずっとずっと一緒にいると思ってたんだ。
だけどオレが一緒になって泣いてどうする。
「すぐには会えなくても、いつかぜってー会える! オレはそう思う!」
母さんが言ってた。言葉は力になるって。言霊っていって声にして言うことで、強く願えば叶うんだって。
手にしていたバスケットボールを康介へと押し付ける。
「持ってけ! これがある限り、オレらがバスケを辞めない限り、ぜってーどこかで会える!」
それは二人でいつも外練習する時に使っていたボール。
そこにオレは願いを込めて大きな字で書いた。
『いつか、また!』
その字を見て、泣いていた康介もごしごしと腕で涙をこすって、大きな口を開けて笑顔を見せた。
「うん! いつか、また会いたい!」
そう、約束を交わして、康介は引っ越していった。
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