いつか、また

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「練習試合に横断幕って気合入り過ぎじゃね?」  体育館ギャラリーに、同じ一年生の桐原と横断幕を結び付ける。 『つかめ! その先』  大きく書かれているシンプルな言葉。  掴みたいのは目の前のゴール。一つの勝利。その先の未来。  そんな願いが込められているらしい。 「なんか、今日の対戦校に大型新人がいるんだってよ」  桐原がポケットに折りたたんで入れていた用紙を広げる。  覗き込むように見せてもらえば、対戦校のデータだった。 「お前、どうしたの? これ」 「俺、情報収集好きなんだよね。今日の練習試合の相手、東野高校は友達がいるからね」  選手の名前はもちろん、学年、ポジション、得意科目、苦手科目……。バスケに関係なさそうな情報も満載だ。 「で、大型新人! 高一で身長百九十。ポジションはパワーフォワード」 「大型っていうのは身長……ってわけでもねえんだろ?体格もいいのか?」 「体格は、まだまだかな。先輩たちに比べると細いよ。七十八キロ。でもその分、かなり素早い動きが出来るみたいで、リバウンドで競り負けても走れる足と、アウトサイドの正確性がポイント」  なるほど。パワーフォワードだからって油断してると外から打たれると。 「いいよな~。百九十センチ」  桐原が大きなため息を吐く。  バスケは背が高ければやはり有利だ。俺や桐原みたいな百七十に届かない選手はゴロゴロ転がっているから競争率も高い。 「なんて名前なんだよ、そいつ」  桐原から用紙を渡してもらおうとしたら、お互いのタイミングが合わず手から離れてしまい、ヒラヒラ舞いながら降下していく。 「やべっ」  慌てて下を覗けば、見た事ない奴がこちらを見上げている。相手校の選手だろうか。見るからに背が高そうだ。  ふと目が合うと、そいつは驚いたように目を丸くした。  紙はヒラヒラ落ち続け、導かれるようにそいつの足元へとたどり着いた。  声をかけようと思ったけど、何故か言葉が出てこない。そいつの驚いた表情が、俺をとらえて離さないからだ。 「す、すいません! 今、取りに行くんで、その紙、その辺にでも置いといてください!」  桐原がそいつに声をかけてダッシュで駆けていく。あ、そうか。対戦相手のデータだ。しかも非公式に手に入れた個人情報。  桐原の慌てた声によって、俺とそいつの間にあったピンと緩みなく張った糸のようなものが、ぷつんと切れた。
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