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「中二の夏。親が離婚したんだ。俺は母さんに引き取られて、こっちに戻ってきていた」
「りこ、ん?」
「そう、離婚。ちょうどそんな時、幸弥から手紙が届いた。県ベスト四まで勝ち進んだって。俺は……素直におめでとうって思えなかった」
胸倉を掴んでいた手は力が入らなくなり、少し震える。
だって知らなかったんだ。思いもしなかったんだ。
康介がそんな状況だったなんて。
「母さんの地元はこっちだから。お祖母ちゃんの家に引っ越して、そこから通える中学に転校した。その頃はバスケどころじゃなかった。授業の進みだって違うし、新しい環境には慣れないし。正直、世の中恨んだよ。みんな普通に小学校から中学校上がって平穏に暮らしてるのに、なんで俺はこんな苦労しなくちゃいけないんだ、って」
「康介……」
「でもさ、ある日はかどらなかった荷解きをしているときに、出てきたんだ。『いつか、また!』って大きな字で書いてあるボールが」
願いを込めて、康介に渡したボール。
きっとまた会える。バスケを続けていれば、いつか、また。
「それで、高校からまた部活で頑張ろうって思った。それまでは家で自主練したりとか、休日は野外コートに出かけたりしてね。で、無事高校合格して今に至るんだけど」
「……だったら高校決まった時にでも連絡くれればいいだろう?」
「うん。そうだよね。でも、勇気が出なかったんだ。連絡しなくなったのはこっちだしね」
「なんだよ、それ」
そう嘆くように呟きながらも、康介の気持ちもわからなくもなかった。
きっと俺が康介の立場でも、連絡は出来なかっただろう。
会いたい。でも、何て連絡したものか……。
その気持ちが、わからなくはなかった。
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