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「同じ県だって事はわかってたからね。いつかどこかで会えるんじゃないかとは思ってた。それが、今日だとは思わなかったけどね」
「ずりーよ。俺はお前がまだ遠くだと思ってたのに」
「そんなの関係ないよ。たまたま今日会えたけど、そうじゃなくても俺は強くなって、幸弥に気づいてもらうつもりだったから」
「なんだ、それ」
そういや桐原が言っていた。『大型新人』って。
身長だけじゃなくて動ける技術面が高い選手だって。
一度バスケから離れたコイツが、そこまでいわれる選手になるまで、いったいどれだけ努力したんだろうか。
「幸弥は今日、試合出るの?」
「いいや、応援だよ」
ポイントガードは層が厚い。一年の新人がそうそう勝ち取れるわけがない。
でもそんなの言い訳だ。だって康介は。
「俺は出るよ。じゃあ、俺の方が一歩リードだね」
「なんだよ、それ」
「『いつか、また』一緒にプレーしようよ。大きな舞台で」
その言葉に、思わず目を丸くする。
「なにを……」
「俺は本気だよ。幸弥と一緒に目指したい。そのために今、頑張ってるんだから」
大きな舞台。それが何を意味するのか、分かってて口にしている。
いつの間にこんなに逞しくなったんだ。
チビで泣き虫だった康介が。
……でも、誰より努力家で負けず嫌いだった。
いつも二人で飽きることなく練習し続けた遠い日。
ただただボールを追いかけて楽しかった日々。
この先は楽しいだなんて言ってられない。途方もない努力を積み重ねなければ。いや、積み重ねても掴めないかもしれない。
だけど、俺は一人じゃない。そして、一人にしないために進むんだ。
「……すぐに追いついてやるよ。待っとけってんだ」
「そうこなくちゃ」
嬉しそうに康介が笑った。その口元は、あのころの面影をほんの少し、残していた。
いつか、また。
二人で同じ道を進むんだ。
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