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最強の王と猟犬
10年経ってもウィンドレアはリタとの約束を守り続けていた。当然のことながら反発が多い状況が続いている。長年続いてきた慣習がそう簡単に変わるわけもない。でも、ウィンドレアは反対派を強硬に排除するのではなく、可能な限り気長に、穏便に説得を続けた。根負けして態度を緩和する貴族も僅かながらに増え始めた頃、ウィンドレアが誘拐された。
連れ込まれたのはどこぞの別荘と思われる場所。磨き上げられた床は管理が行き届いていることを示している。綺麗好きな家門は……と考えていると身なりを整えた男が階段を上がってきた。
「抵抗もしないとは臆病なのですか」
初老の貴族は能力登用に反対派の次席、王の剣たるイアンソドに連なる家門の男だった。ウィンドレアとしては付き人に危害を加えられるのを避けるために従っただけ。猿轡を噛ませておいて問いかけるとは無礼だと思いながらとりあえず静観する。男はそれに気を大きくしたのか饒舌になった。ここぞと不平不満や批判を言い連ねる。
「まったく、貴族は尊いのですよ。それなのに下民を能力が高ければ出世させ、貴族の名乗りを許すなど……血が汚れるではありませんか。下民は我らの言う通りに働く者で、対等なんてありえない。だから、ウィンドレア王は配下に恵まれないのですよ。最たるのは猟犬! 女など能力がない。それなのに社交もしないし、こちらに頭も下げない。確かに彼女は公爵ですが、女に地位はありません。さっさと跡継ぎを産めばいいのに! ああ、失礼。それではしゃべれませんな」
やっと、猿轡に気付いたらしい。外されると空気が新鮮に感じる。どんな言葉をかけてくれるかと期待している男に対し、ウィンドレアは憐憫の視線を向けた。大きなため息をつくと咳払いをして声の調子を確かめ頭上に一言。
「だとさ」
「⁉」
ちょうどウィンドレアの真上に当たる屋根裏スペースから影が躍り出た。
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