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「ああ、だから、その手」
和海はわたしのガーゼまみれの手を見つめてくる。急にうちの子がなんでも噛みつく頭の悪い子に思えてきて、恥ずかしくて手を隠す。
「すごいやんちゃな子みたいだね」
和海はニヤニヤしながら言った。その表情には、自分の飼い犬より躾のなっていない子に対する嘲笑が見えた。
「まあ、ね」
わたしは目を逸らしながら、腕をさする。恥ずかしいけれど、躾がなっていないのは本当だ。それに、言い出せないけど傷は袖に隠れた腕にまで続いている。
「あとさ、もう一つ。最近、新堀さんとなにかあった?」
なにか、とは何を指しているのか。曖昧な質問にわたしは首を傾げる。
「ほら、涼佳と新堀さんって前は実は裏で付き合ってるんじゃないのってくらい、いつも一緒に居たじゃない。違うクラスなのに休み時間の度に向こうから会いに来たり、毎日一緒に帰ったりさ。でも、最近は全然新堀さんを見ないし」
一つ訊きづらいことを聞けたからか、和海は興味津々でズケズケとわたしの懐を探ろうとしてくる。案外、厚かましい子なのかもしれないと、今更ながらに気づく。
友人の言う新堀さんとはわたしの保育園の頃からの幼馴染の女の子。極度の人見知りでいつもわたしの影に隠れている。まあ、今は居ないんだけど。
彼女はわたしを唯一の友達だと言っていて、実際、あの子がわたしの居ないところで同級生の誰かと話しているのを見たことはないし、わたしと一緒に友達の輪にいる時も周りに合わせて相槌を打っているだけで、自分から話すことはない。そんなだからか、和海も出会ってからもう一年は経つだろうに、いつまでも新堀さんとよそよそしく名字で呼ぶ始末。
物静かだけど勉強が出来るでもなく、テストはいつも下から数えたほうが早いくらい。かといって、運動も得意じゃなくて、マラソンなんていつもドベ。何か特技があるわけでもない。
わたしが居なければ、何も出来ない子。
「まあ、あの子にも事情があるんじゃない? もしかしたら、わたしの他に友達が出来たのかも」
「まっさかー」
冗談なのか、本気なのか和海はケラケラと笑った。
そんなの、あるはずがない。わたしは口角を釣り上げる。
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