そのま白き体、月明かりに染まりて

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それから5年 我が家の芝生の上にはいつもクゥーがいる。 父が庭から見下ろす景色には彼の姿が加わった。 家族四人に犬一匹。それが今の私達の家族構成だ。 「今年はAKBは出ないのか。全く、炎上商法の成れの果てだな」 いつものように父の声が居間から聞こえる。 「じいじ、また怒ってる?」 その小さくてか細い声に反応して父の背中が僅かに揺れた。 「怒ってるのかなぁ。聞いてみたら、じいじに」 と私。 「うん、聞いてみる」 と娘。 「あっ、このお姉さんたちの歌が終わってから。ね」 「終わってから?」 「そう。終わってから」 不思議だった。二つの命の存在がこれほど家のなかに柔かな光や風を運んでくれることが。 「IZONE?どう読みゃいいんだよ。ふりがなぐらい打っとけバカ」 そんな声も心が苛つかないのはなぜだろう。 娘は年が開ければ5歳。私に似たのかどうかは知らないけど、おしゃまになった近頃は父と良く絡む。ちゃんと相手をしてくれる事はないけど逃げないところを見ると父も憎からず思ってはいるらしい。 そしてクゥーはと言えば、年が開ければ天命を迎える。 かかりつけの獣医さんの見立てではクゥーは年明けの春頃までには天国に旅立つらしい。 ここ最近は庭の隅っこの犬小屋で過ごすより、部屋のなかのソファで過ごす時間が増えたような気がする。 家の中には上げない条件でクゥーを迎え入れた父も近頃はもう何も言わなくなった。 もう犬には見えないからな、そんな父の言葉に涙を零す母がいた。 「クゥーちゃん」 あと少し、 もうあと少し、 あなたは私達と共にある。
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