そのま白き体、月明かりに染まりて

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年の瀬の渋滞を繰り返す幹線道を車の間をすり抜けながら進み、見慣れた県道に入ると雨はまた勢いを増した。 実家へと続く急な勾配の坂道までは運河沿いの道をゆく。 戦国時代の城跡の石垣だけが残る小さな城下町。それが私の生まれ育った町。急な坂が多くバイクや車がないと日々の生活が成り立たないそんな街。 ここ数日の雨で水かさが増した川の流れを右に見ながら、暫く進むと道が石畳に変わる。コツコツとした小刻みな振動がシートから伝わり、思わず顔が歪みお腹に力が入る。 (できればバイクに乗るのは控えてくださいね) おばさん先生の言葉が頭を過る。こければアウト、母子ともに命の危機に瀕することになるらしい。 雨の日のバイク。パーカーの上に羽織ったGジャンももう雨水をいっぱい吸って肌にまでじゅわっときている。 (慎重に慎重に) それでなくても石畳の路面はハンドルを取られやすいんだから。 女子高時代、原チャリで膝を擦り付ける程の勢いですり抜けた実家へと続く左コーナーを駆け上がる。一気にかけ上がらないと失速するほどの勾配はここら辺りでも有名な事故多発ゾーン。 坂道を下ってきた車やバイクが勢い余って曲がりきれず運河に突っ込む死亡事故が数年に一回の割合で起きている。 他にも単なる転倒や接触事故は日常的には起きるいわゆる魔のスポットと言ってもいいところだ。 登りきるまでは200メートル余り。気を緩めないで一気に行かないと悲惨な坂道発進を喰らう羽目になるのだけど。
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