そのま白き体、月明かりに染まりて

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「えっ?なに?」 それはちょうど坂の真ん中辺りに差し掛かった時だった。 前方に何やら白い大きな塊が見えてブレーキを踏む。 両側車線を塞ぐようにして道の中央にその子は横たわっていた。 雨で濡れネズミになったゴールデンレトリバー、毛むくじゃらの間から黒い瞳が力なくこちらを向いていた。 「おいおい、なんでそこにチミはいるんだよ」 見たところどこにも怪我はしていないようだ。おそらく震えが来ているのは空腹と寒さのせいだろう。小さい頃は実家で柴犬を飼っていたのでその挙動と表情でおおよそ何を訴えているのかは分かった。 「待ってな」そう声をかけると"彼女"は喉の奥から絞り出すような声でクゥーと小さく鳴いた。 後ろで待ってくれている数台の車に手を上げてからマジェを路肩に寄せる。ヘルメットを脱いでミラーにかけてから、後続の車の列に大きく手を上げて合図する。交通量の多い道だけに10台以上の車が列をなしていた。降りしきる雨を避けるように掌でひさしを作って見上げると坂の上からも車が降りて来ていた。 とにかくこの子を移動させないと。急いでその背中から手を回し ちょうど羽交い締めの様にしてよっこらせと彼を持ち上げる。 「つっつー重っ!」 雨の水分をたっぷり含んだその体は思いのほかずしりと来る。 あまりの重さによたよたとへっぴり腰でその場にへたり込む。 大丈夫?と声をかけて頭を撫でてもその瞳は虚ろで反応しない。 さぁどうしよう。雨の勢いが増してるせいか通り過ぎる車は声をかけてくれるものの降りてきてはくれない。 「ふん、なんやねん!」 ヘルメットに濡れ鼠のジージャン姿。色気の毛の字もないアラサー女にわざわざ土砂降りの雨の中、車を降りてきてまで助ける価値は見いだせないということか。
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