そのま白き体、月明かりに染まりて

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とりあえずなんとかして雨を凌げるところに移動させないと。 首筋にはちゃんと首輪は填っていた。わりと新しくてなめし革に金色の縁取りがしてあるやつ。 「ちょっと痛いかもだけど、ごめんよ」 その首輪に手を掛け引き摺っていこう。少々荒っぽいけど自分の 筋力を考えると抱き抱えて移動させるのは到底無理だ。 大きく息を吸ってから全身に力を込める。両手を首輪にかけて息を吐き出しながら一気に外側へと倒す。 「う、動くけどさぁぁ…」 やっぱり重い。脱力して動く気配もないゴールデンリトリバーは想像を絶するほどに重い。 「ちょっとあんたぁ、少しは動けない?はいはいぐらいできるでしょうよ」 聞こえてるのか聞こえてないのか、毛むくじゃらのキミは絞り出すような声でまたクゥーと鳴いた。 視線の先にあったセブンイレブンの軒下にどうにかこうにか移動させる。背中に背負ったリュックからハンドタオルを引っ張り出し顔に付いた泥水を拭ってやる。ふてぶてしい図体の割にはあどけない瞳に思わず口許が緩む。 白い毛並みにはキラキラと光る銀色の毛が交じり歯もかなりの本数が欠けていた。首輪には登録証のようなものも見られなかった。 「でもそっか、結構おばぁちゃんなんだよねチミは」 そして泣けなしのお金の中から牛乳とドッグフードを買ってきて食べさせると彼はまた体を擦り寄せるようにしてクゥーと鳴いた。 気がつけば辺りは帳が降りて雨はもうすっかり上がり西の空は薄っすらとオレンジ色に染まっていた。 「こんなもんだから今の私にできるのは。後は自分で切り抜けな」 ガリゴリと無心でドッグフードを頬張るその毛むくじゃらの後ろ姿に少し未練を残しながら私はマジェのスロットルをグイッと開けた。
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