そのま白き体、月明かりに染まりて

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「帰ってきたの、みやびちゃん」 実家の前でヘルメットを脱ぐと隣のおばさんが声をかけてきた。 恐らく母の愚痴を毎日聞かされているんだろう。少し眉を細めた意味深な微笑みにこちらの返す笑顔も幾分固まりがち。 でもお腹にその視線を感じてしまうのは多分私の被害妄想と思われ。 「おばちゃん、来年もよろしゅうね」 ぺこりと頭を下げ愛想もそこそこに玄関へ続く階段を足早に駆け上がる。 実家は築25年の一戸建て。城跡と運河を中心に放射状に拡がる町並み。それらを取り巻く里山を切り開いて造成したニュータウンに父が30年ローンで購入したもの。2階建ての4LDKで、土台が駐車場になっていてその上に家が載っかっている新興住宅ではよく見られるやつだ。 玄関脇が小ぢんまりとした小さな庭になっていてそこからは城下町の街並みが見下ろせた。ここからの景色を見る度に今更だけど父は普通のサラリーマンにしては良く頑張ったとも思う。 おそらく、名もしれない小さな会社で働き、今でも中間管理職に甘んじている、そんな父の小さなプライドを支えているのはこの景色なんだろうか。 「ふーーーっ」 3年ぶりに玄関の取手に手をかける。 雨上がりの澄んだ空気を深く吸い込み胸をいっぱいに膨らませそしてできるだけゆっくりと長く息を吐き出した。 今の私には二人分の空気が必要なんだ。こんな私でも自分の中ではっきりと何かが変わりつつあるのを感じていた。誰かの為に生きるって、そんな事は考えもしない人だったのに今は確かに一つの命を見つめてる私がいた。
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